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マイナスイオン

言説の一般的概念や通念の説明

語句説明

 「マイナスイオン」は、家電製品、置物、滝などで発生し、大気中に漂い健康に好影響を与える物質であると主張されている。化学で扱う溶液中の陰イオンとは異なるものであると推測されるが、大気イオン(負の荷電粒子)とも解釈できる文脈も見られ、物理的実体について何を指しているのかはっきりしない場合も多い。
 マイナスイオン言説としては、ヒトに対して健康効果が得られる、というのが一般的に流布しているものである。ただし、その効果範囲は極めて広く(曖昧で)、抗酸化作用としてマイナスイオンが働くといったものから、神経系への作用(副交感神経を活性化する)、免疫機構への働き、血液への浄化作用、有害な電磁波を防ぐ、あるいは植物の生長促進といったものまで雑多な言説が林立している状態である(1)(2)(3)。
 本評定においては、マイナスイオン言説を「基本作用」と「健康効果」の両面からの記述を行う。なお、「マイナスイオン」という科学・学術用語は存在せず、いわゆる造語であるため、本項目は一般的な概念を説明したものであることを付しておく(4)。

効果の作用機序を説明する理論の観点

理論の論理性 (低)

 マイナスイオンの指し示すものが、時には大気イオンであったり、トルマリンの圧電効果で生じた電位差(静電気に近い)であったり、レナード効果で発生するとされる大気中の電位差であったりと、不明瞭である(5)(6)。実体が不明なまま、健康への寄与の効果が主張されるうえに、その寄与のプロセスが理論化されていないため、論理性は低いと言わざるを得ない。
 個別の健康効果の理論においても疑問点は多い。たとえば、マイナスイオンは抗酸化作用として働くなどという説明もある(1)(2)(3)が、“どのように”“どれくらい”マイナスイオンを得ればよいのか(そもそも「マイナスイオン」が何であるか不明であるが、ここでは“人体に摂取できる物質”であると仮定する)という説明はない。また、抗酸化作用だけでは説明できない効果(神経系への作用、免疫力の強化など)についても同時に謳われており、健康効果の作用機序を混同させた形での主張が目立つ。
 また、「日本マイナスイオン応用学会」ではマイナスイオンについて「[…]7.マイナスイオンとは酸素イオン、酸素核ラジカルイオン、ヒドロキシルイオンである。8.マイナスイオンとは、このほかに炭酸核、硝酸核、硫酸核などのイオンがある。9.マイナスイオンとは、電子e-である。」などとして説明している(5)が、これでは硫酸を摂取すれば健康効果が得られる、と誤認させてしまうことすらあるだろう(「硫酸」を直接摂取してしまうと抗酸化作用云々以前に、人体に重大な害を及ぼすことは明白である)。

理論の体系性 (低)

 そもそも、山中や滝の付近で気持ちがよいことの原因を、大気中の負の荷電粒子に求めたことが発端と推測できる。地面がマイナスに帯電しているという事実から、大気中に浮遊物が多い環境に負の荷電粒子が多いのは納得できる。しかし、それなら滝の近くだけでなく、負の荷電粒子が多い、砂埃が舞う砂漠も健康によいと理論化されてしまう(4)。これでは、体系的な説明に欠けていると言わざるを得ない。
 また、健康効果についてはさらに整合性を欠いている。マイナスイオンが仮にヒトの人体に何らかの健康効果を及ぼすとしても、対象となる疾患や症状自体が明示化されていないのは現代医学と照らし合わせて致命的である。ヒトへの“何に”健康的であるかという理論が乱立しており(1)(2)(3)、また、それぞれ作用機序が異なる現在のマイナスイオン言説において、体系性は極めて低い。

理論の普遍性 (低)

 実体、メカニズム、効果のすべてにおいて曖昧な状態にあり、普遍性を評価できる状態にない。肯定派によると、マイナスイオンの効果は万人に広く与えられるとしている(1)(2)(3)。しかし、言説に否定的なデータが得られた場合にも、それを“物質として定量的にとらえられていない実情がある(7)(8)”などと主張しており、理論的なまとまりすらないことがうかがえる。
 以上より、普遍性は低いと評価する。

実証的効果を示すデータの観点

データの再現性 (低)~(中)

 論文の発表も少なく再現性の評価は難しい。家電メーカーの実験では再現性が確認されることもあるが、実際に使用される環境とかけ離れた実験条件が設定されていたりといった問題がある。
 健康効果について有効性が確かめられた研究もあるがごくわずかな効果であり、こうした研究をもって再現性が担保されるかは不明である。中には二重盲検法などと手続きが採られていない、アンケートによる自覚症状の軽減などを効果としているものもある(9)(10)。

データの客観性 (低)~(中)

 学会発表はあるが、査読付き論文での発表はほとんどなく、そういった発表母体も限られた一部の団体であることが見受けられる。効果を肯定する実験としては、家電メーカーの実験など、利益が得られる団体による厳密性に欠ける報告が多い(9)(10)。
 また、客観的な評価基準が設定されておらず、大気イオンとして、荷電粒子の測定方法はある程度確立しているが、健康増進をどのように測定するかが定まっていない。そのため、イオン濃度と健康増進効果の相関が確認できていないことも問題だろう。

データと理論の双方からの観点

データ収集における理論的妥当性 (低)

 「マイナスイオン」というものの実態が明確ではなく、肯定派においてすら“定量的に測定できない”としている(8)。現在も「マイナスイオン測定器」なるものは多く販売されている(11)が、マイナスイオンがそもそも何を意味しているのかという定義すら曖昧であるため、実際に何を測定しているのか不明瞭である(「空気中のイオン密度測定方法」といったものがJIS規格にて制定されているが、それにおいてもマイナスイオンが“何を意味しているか”はっきりしない(12))。

理論によるデータ予測性 (低)

 マイナスイオンを大気イオンと考えると、マイナスイオンの発生部分についてだけは純粋に物理的な反応であるため、高い精度で管理が可能なはずである。
 一方で、謳われている健康効果については予測が困難である。たとえば抗酸化作用によって健康効果が得られると主張しても、マイナスイオンと抗酸化作用との理論がなく、データを予測する段階にすらない。マイナスイオン言説では他にも多くの健康有効性が謳われているが、それらとマイナスイオンとの間に整合性のとれる理論的説明は一切なく、期待できる効果を高く予測できる実験を行うことはできない。

社会的観点

社会での公共性 (低)

 日本においてマイナスイオン研究を積極的に行っている団体には、たとえば「日本マイナスイオン応用学会(5)」「日本機能性イオン協会(7)」といったものがあり、それらにおいて“肯定的”な研究成果が繰り返し発表されている(他に「全国マイナスイオン医学会(現在ホームページは閉鎖されている)」「日本大気電気学会(13)」などがある)。しかし、マイナスイオン関連機器がウェブサイト上で宣伝・販売されていたり、特定の研究者のみで中心的な役職を構成していたりと公共性に欠ける面が目立つ。
 さらに、マイナスイオン言説については「国民生活センター」等の機関では懐疑的・否定的な立場をとっており(14)、こうしたことからも言説肯定派の公共性は低いことがうかがえる。

議論の歴史性 (低)

 1990年代から2000年代初頭にかけての「マイナスイオン」ブームは記憶に新しい。大手家電メーカーによって商品開発を先行とする形での“研究”が進められてきた。そのような研究の多くは特定の団体によって進められ、それに企業が“乗る”形で社会的なムーブメントとなっていった(1)(2)(3)。しかし、ひとたび社会に晒されると「マイナスイオン」への科学性への批判も方々から起こることになる(15)(16)(17)。そうした中においても「マイナスイオン」研究や議論は極めて閉鎖的であり、否定的な指摘に対して十分な議論を行ってこなかった。
 言説としても歴史性は非常に浅いが、そのような中においても十分な議論(双方向の)がされてきたとは言えず、歴史性は低評価とする。

社会への応用性 (低)

 かつての社会的なブームも現在では一段落ついているが、いまだに「マイナスイオン発生」といったような宣伝文句が見受けられ、もはや社会において一定の市民権を確保しているといってもよい状況である。
 そのような状況で「国民生活センター」への消費者の意見も多数あり、その多くは謳われている健康効果が得られなかった、といった批判的なものである(14)。
 マイナスイオン言説においては、実態は不明だが何となく凄そうだ、という概念が一般的に蔓延していることがいえ、商品販売を先行とした“宣伝文句”として機能しているようにさえ見受けられる。
 少なくとも、マイナスイオンの健康効果について、個人が普遍的に実感できるほどの製品はないといってよく、応用性は低いといえる。

総評

疑似科学

 物理的実体が不明というだけで科学的評価としては致命的である。しかし、一般人の間では健康または精神衛生上の良い効果があると認識されており、そこには科学的根拠もあるものだと考えられている。その特徴はまさに、疑似科学と呼んでよいものである。
 ただし、放電式のイオン発生器には集塵効果や除電の効果はあると考えられるため、そちらの用法であれば科学的に問題はない(源流の言説からは逸れているが)。また、マイナスイオンの効果ではないが、放電式イオン発生器の副生成物であるオゾンによる脱臭効果・除菌効果も期待できる可能性はある。
 しかし、「マイナスイオン」というものの実態はいまだに不明瞭であり、健康効果においては作用機序が無秩序に乱立している。また、ヒトに対して健康効果があることを示す研究もあるが、応用的な意味合いで疑問が残る。

参考文献:

(1)『マイナスイオンの健康学』 山野井昇 サンロード出版
(2)『マイナスイオンの秘密』 菅原明子 PHP研究所
(3)『マイナスイオン生活のすすめ』 菅原明子 PHP研究所
(4)マイナスイオンと健康 [2009年度 情報社会と科学] 長島雅裕
(5)日本マイナスイオン応用学会 http://www.minusion.jp/ 
(6) 『謎解き超科学』ASIOS
(7) 日本機能性イオン協会 http://www.japan-ion.jp/index.htm
(8) 「水商売ウォッチング」 天羽優子 日本機能性イオン協会の山田氏投稿に関するコメント(2003/03/26)http://www.cml-office.org/wwatch/nion/comment-ni-07
(9)「長期マイナスイオン暴露がヒトの生理機能・免疫機能に与える影響」 渡部一郎 眞野行生 日本温泉気候物理医学会雑誌 Vol.64 (2000-2001) No.3 P 123-128
(10)「運動後の疲労回復に対する大気中マイナスイオンの効果」 琉子友男 日本生気象学会雑誌 Vol.33 (1996) No.3 PS33 111
(11)マイナスイオンの専門サイト「イオントレーディング」 http://www.n-ion.com/
(12)「空気中のイオン密度測定方法」 規格詳細情報- JIS B 9929
(13)日本大気電気学会 http://www1a.comm.eng.osaka-u.ac.jp/~saej/index.html
(14)マイナスイオンを謳った商品の実態(国民生活センター) http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20030905_2.html
(15)『メディア・バイアス~あやしい健康情報とニセ科学』 松永和紀
(16)『ニセ科学入門』 菊池誠
(17)『高校の先生のために書いたマイナスイオン』 安井至

情報提供、コメント、質問を歓迎します。

(最終更新日時2017年6月14日)

投稿

投稿&回答

以下は情報提供です。
今日発売になった2015年12月号の「中央公論」に、『特集「疑似科学」と科学のあいだ』という記事がありますが、なぜか血液型は全く取り上げられていません。何か書いてあったら、早速ここにアップしようと思ったのですが、大変残念です(笑)。http://www.chuokoron.jp/newest_issue/index.html
ところで、この特集では、石川幹人先生への取材記事が掲載されています。執筆記事ではないのでなんともいえませんが、なんと「マイナスイオンドライヤー」は、多少は効果はあるということで「それくらいの利点はありそうです」とあります。ちょっと驚きました。そうなると、このサイトの「マイナスイオン」の内容は改訂されるのですか?
関連部分は「ドライヤーから荷電粒子が吹き出ると、髪の毛が帯電して反発し合い、浮き上がりますから、早く乾かすことできます。熱風を当てる時間が短くてすめば、髪のダメージは減ります。商品の宣伝コピーとは違いますが、そのくらいの利点はありそうです。」のだそうです。
しかし、マイナスイオンドライヤーの仕組みは、例えば、
>マイナスイオンドライヤーは、髪にマイナスイオンを吹き付けることによって、髪の毛の静電気を減少させ、まとまりやすくするものです。http://www.tescom-japan.co.jp/knowledge/hair/
つまり、「髪の毛の静電気を減少させ」とありますから、石川先生の「髪の毛が帯電して反発し合い、浮き上がります」という説明とは正反対です。また、髪の毛が浮き上がるほど帯電するとなると、たぶん数千ボルトから数万ボルトの静電気が発生するはずですが、私の使っているマイナスイオンドライヤーは、「髪の毛が浮き上がるほど帯電」はしませんし、他の人からもそんなことを聞いたこともありません。本当はどうなんでしょうか?電圧を測定してみたのでしょうか? (投稿者:ABO FAN,投稿日時:2015/11/10 23:50:18)

(回答日時:2015/11/18 13:03:11)

少し昔の話ですが、日経エレクトロニクス 2011年11月2日号に「イオン健康家電の正体」という特集で「イオンそのものの効果は確認されていると言っていいだろう(p49)」とありますが、本当はどうなのでしょうか? (投稿者:nekoneko)

マイナスイオンの効果を宣伝するドライヤーとかについて消費者庁へ告発したりしないのですか? (投稿者:Genison)

Genison様
回答が遅くなり申し訳ございません。
ご指摘の件に関しましてですが、消費者庁も景品表示法にもとづいた措置を順次行っています。
また、ドライヤーの場合は、若干効果が期待できるので、一応肯定的にとらえることも可能です。その理由は、ドライヤーから荷電粒子が吹き出ると、髪の毛が帯電して互いに反発しあい、髪が浮き上がって早く乾くようになります。温風を当てる時間が短くてすみ、髪を傷めにくくなるわけです。
厳密な意味ではマイナスイオン言説の謳っている効果とは異なりますが、一つの考え方としては提示できるかと思います。

しかし、この考え方は、理論として一定の論理性はあるものの、理論に合致した妥当なデータは得られていないとみられます。というのは、メーカーがこの考え方を主張していないところから、現状のドライヤーからは、十分な量の荷電粒子は出ていないと推測されます。」(ABOFANさんからの指摘による追記2015.11.18)

マイナスイオン・ブレスレットを買ってもっているのですが、効き目はないのですか? (投稿者:swc05)

マイナスイオンの健康効果自体に大きな疑問があるわけですが、ブレスレットからはマイナスイオンに相当するものさえも出ていません。さらに、電気の法則から、もしブレスレットからマイナスが出ているとしたら、プラス側が体に残って悪影響があることになってしまいます。

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