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水からの伝言

言説の一般的概念や通念の説明

語句説明

 水からの伝言とは、江本勝氏による、水を結晶させた氷の形状からメッセージを読み取ることができる、という著書(言説)である。例えば、水に「ありがとう」や「平和」といった“良い”言葉をかけると結晶は美しい形となり、「バカ」や「戦争」といった“悪い”言葉をかけると結晶も醜い形となる、というのが本言説の中心的主張である(1)(2)(3)。日本の道徳教育の現場でこの書籍が取り上げられたことから、大きな反響を呼んだ(4)。
 その言説は多方面から話題を集めたが、最大の原因は、水からの伝言における言説は“科学的に証明された言説である”と著者が説明したことによる科学界からの批判である(後に江本氏は、著書はフィクションであり物語である、と述べているが、いずれは証明されるもの、とも語っている)。

効果の作用機序を説明する理論の観点

理論の論理性 (低)

 人間の言葉は“波動”であり、それを水が理解するとしている。その理由に、水も振動している“波動”であり、万物は“波動”からできているから、としている(1)(2)(3)。ここでの“波動”とは物理学用語の波動とは区別される。つまり、この主張は、音波としての空気の振動と、水分子の熱による振動と、万物を構成する量子の確率振幅を混同している。
 また、言葉が価値を運ぶという発想は、言語の恣意性やコミュニケーションにおける概念共有の前提からもずれた、一種の言霊信仰に似た側面がある。当然ながら「バカ」という言葉を聞いて、それが肯定的な意味であるのか否定的な意味であるのかについて絶対的な判断を下すすべはなく、その意味は様々な文脈において変化しうるものである。
 人間が理解すべき水準にあるこのような意味理解を「水」に委ねてしまっている本言説は、「悪意の言葉をかけると、相手の体の水に悪影響があるからやめよう」という趣旨であり、人間関係を物理現象に還元する倒錯した論理構成になっている。

理論の体系性 (低)

 上に述べたように、物理学や言語学の知識と相容れない考え方である。また、水の結晶(雪の結晶)の形について、中谷宇吉郎氏の中谷ダイアグラム(5)という研究があるが、水からの伝言の主張は、そういった研究とも不整合である。

理論の普遍性 (低)

 あらゆるものは“波動”である、どこにでもある「水」が大事だとして、一見普遍性を装っているが、具体的な理論構築はなされていない。

実証的効果を示すデータの観点

データの再現性 (低)

 科学論文での厳密な報告がなく、再現性を評定できない。ご飯に声をかける実験など、派生した実験の結果が、多数の個人から報告されたとしているが、報告バイアスがかなり強いものと推測できる。

データの客観性 (低)

 本言説の報告のほとんどは、江本氏の著書出版で行われており、厳密な論文報告は出されていない。実験の体裁はとっているものの、科学の実験としては十分にコントロールされているとは言い難い。一般読者からの“実験報告”をそのまま次の著書に載せている例もあり、結果の解釈も多分に恣意的である。
 また、実権者の主観で“きれいな”結晶を認定しており、その基準にはばらつきがあることが予想でき、客観的な判断とはいえない。結晶の取扱いが難しいとして、結晶実験はほとんど特定のスタッフによって行われている。ゆえにデータの客観性は低いといえる。

データと理論の双方からの観点

データ収集の理論的妥当性 (低)

 データとして得られた“きれいな結晶”は本当に「ことば」によってきれいになったのか。そしてその「ことば」には“波動”という作用が働いているのか、という理論自体が科学的に全く支持されていないうえ、“波動”という概念すら不明瞭なため、妥当性を推し量る“対象範囲”にすらないといえる。

理論によるデータ予測性 (低)

 主張自体は形式上の予測性は持つが、主張が信頼できず現象も再現できないため、予測しているとはいえない。また、本言説の理論への「反証」が“実質的に行えない”以上、予測性のある研究を行っているとはいえない。

社会的観点

社会での公共性 (低)

 現在、「水からの伝言」において主張された言説、水の結晶における言葉の影響、といったことについて科学的に調査、研究している団体はない。「株式会社I.H.M」(6)が熱心に本言説を主張しているが、この団体は著者である江本氏の経営によるものであり、科学的な研究の体裁を保っているとは言い難く、啓蒙団体、自己啓発団体といった説明のほうが適切である。また、水はある種の“波動”を感知するとして、その波動測定器なるものを販売している(が、そこで謳われている“波動”の実態は不明である)。よって、社会における本言説の公共性は低いと評価できる。

議論の歴史性 (低)

 本言説は、実質的に江本氏一人によって構築されてきた上、その言説内部にて批判的な議論を行っているようにも見受けられない。さらに、外部からの指摘を反省的に受けとめ、改善する様子もなく、これは江本氏による「啓発活動」とするほうが普通である。言説を科学的な議論の土壌に載せていないため、歴史性を推し量る以前の問題であることがいえる。

社会への応用性 (低)

 本言説が科学的な研究からは逸脱していることを指摘してきた。よって本言説を科学的だとして、何らかの製品開発で社会へ還元するということについては当然ながら低評価とする。
 道徳教育などの啓蒙、啓発等の観点から、本言説を物語(ファンタジー)として社会への応用することについても述べる。本言説では、水の結晶の美しさをその「外見」によって判断(断定)しており、きれいな結晶と醜い結晶の違いは「見た目」によってでしか測定されていない。これは、解釈によっては差別思想にもつながるものであり、道徳教育としてもふさわしいものとは言えない(7)。

総評

疑似科学

 ほとんど科学の体裁をなしていないため、本来ならば科学性の判定をするような対象でもない。しかし、一部で科学的研究の結果である(8)と主張された上、中等教育の現場で取り上げられた経緯(9)もふまえ、あえて疑似科学と強調しておく。

参考文献:

(1)『水からの伝言』(ビデオ版)江本勝
(2)『水は答えを知っている』江本勝
(3)『水の「真」力』江本勝
(4)『水はなんにも知らないよ』左巻健男
(5)http://wattandedison.com/Snow_Crystal.pdf 雪結晶の様々な形ができる条件(Conditions for Forming Various Patterns of Snow Crystals) 神田健三(中谷宇吉郎 雪の科学館)
(6)http://hado.com/ 株式会社I.H.M
(7)『謎解き超科学』ASIOS
(8)「Effects of Distant Intention on Water Crystal Formation: A Triple-Blind Replication」 DEAN RADIN, NANCY LUND, MASARU EMOTO, AND TAKASHIGE KIZU Journal of Scientific Exploration, Vol.22, No.4, pp.481–493, 2008
(9)菊池誠「疑似科学の現在」、『科学』76巻9号902-908(2006) 

・季刊『理科の探求』左巻健男 2014春号 特集 ニセ科学を斬る! P48-111
・季刊『理科の探求』左巻健男 2015春号 特集 ニセ科学を斬る!リターンズ p50-109
・http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/fs/ 「水からの伝言」を信じないでください
・http://masaru-emoto.net/jp/ 江本勝氏の公式ホームページ

情報提供、コメント、質問を歓迎します。

(最終更新日時2015年8月17日)

投稿

投稿&回答

江本勝さんの言う「水からの伝言」は、江本勝さんの「自らの伝言」なのです。「水からの伝言」と言うからこのブログの対象になるのです。「自らの伝言」なら只の戯言です。ブログ主様はどう思いますか? (投稿者:たもん,投稿日時:2017/03/11 11:57:58)

ご投稿ありがとうございます。
「自らの伝言」うまい言い換えですね。
ご指摘わかります。
実際のところ「水からの伝言」のような主張は履いて捨てるほどありますが、この問題がここまで話題になったのは学校教育の場に用いられたという経緯が大きいように思います。 (回答日時:2017/03/23 21:57:07)

横入りですが、「植物への声掛け」というカテゴリには植物にクラシック音楽を聴かせて生育を良くすると考えてる人達も含まれる気がします。
「波動」という考えが何物であるか、特定の周波数が生き物に何らかの影響を及ぼすと考えてる人達は一定数いるような気がします。
イルカにセラピー効果があるとか、音叉で身体の不調を治すとか。 (投稿者:ユウリ,投稿日時:2017/03/03 12:32:15)

ご投稿ありがとうございます。
ご指摘の通りと思います。「波動」や「量子」などの語感に何らかの”魅力”があるのでしょうね。 (回答日時:2017/03/11 09:04:43)

10/21 02:38:46に投稿した者です。
せっかくご返信いただいていたのに、確認が遅くなってしまい申し訳ありません。
水からの伝言のように書籍等で発表されたというより一般によく言われる話という感じで「名称」は特にないと思いますが、敢えて命名するなら「植物への声掛け」といった感じでしょうか。
ヒントになるかどうか分かりませんが、何となくそんなこともあるような気がしてしまう人が(私自身を含め)結構いるのではないかと思い、その科学性を評定していただきたいと考えた次第です。
因みに自分の考えをよく分析すると、科学的に正しいと思うことと観念的(宗教的?)に正しいと思うことを意外と混同しがちなのかな、と思いました。(後者で正しいと思い込むと、前者で正しくないと考えるのが難しくなる)
もう少し例を挙げると、ジャムおじさんがパンを作る時「美味しくなぁれ」と生地に声を掛けながら捏ねることや、ふざけて本を床に投げた娘に「本が痛がってるよ、投げちゃ可哀想だよ」みたいな言い方をするのも上記と同じ感覚があり、併せて考察いただければ幸いです。 (投稿者:ご質問,投稿日時:2015/11/15 00:49:59)

いえいえ。お返事ありがとうございます。
なるほど。大変貴重なご意見です。ありがとうございます。
後はそれを具体化するために、どのような方策をとればよいか、ですね。
たとえば、「名称」がないものに対し、こちらがそれを”与える”と、かえって逆効果になることもあるかもしれません。それが、科学コミュニケーションの難しいところなのですが、このサイトはそういった問題を解決するための方法論を話し合う「場」を目指しておりますので、お考えになられていることや方策など、どんどんご投稿ください。
「植物への声かけ」については、こちらのほうで予備調査してみます(何か、固有の名称があるかもしれせんし)。 (回答日時:2015/11/18 12:56:14)

これと似た話で(あるいは全然似てないのかもしれませんが)植物に「綺麗な花を咲かせて」とか「美味しい実を実らせて」と声をかけるとそのとおりになるという話は、どうなのでしょうか? (投稿者:ご質問,投稿日時:2015/10/21 02:38:46)

ご投稿ありがとうございます。
お話の件に関しまして、依頼項目として追加させていただきたいのですが、具体的な「名称」はご存じないでしょうか?(もしくは、調査のとっかかりになりそうなヒントがあれば……)
もしご存知であれば、お教え願えればと思います。
よろしくお願いいたします。
(回答日時:2015/10/25 22:24:55)

 私はペットショップに勤務しています。先日行われたペットの展示会でバイヤーが、家庭で電荷水を作ることの出来るペット用品を大量に買い付けてきました。
 電荷水とは「水道水に電気を負荷することで口の中の口臭や原因菌を吸着しやすくなる」(メーカーカタログより原文ママ)というものらしいのですが、ネットで検索しても、キチンと説明がなされているサイトが見当たりません。
 そこでお伺いしたいのですが、「電荷水」とはいったいどのような物なのでしょうか?科学的根拠があるものなのでしょうか?
 商品を販売する立場とし、お客様に信用のデキナイ物を売りたくはありませんし、詐欺の片棒を担ぐような真似もしたくありません。
 評定をお願いします。
  (投稿者:あるとら,投稿日時:2015/05/16 07:57:38)

あるとら様
直接的な回答ではなく心苦しいのですが・・・、

季刊『理科の探求』左巻健男 2015春号
特集 ニセ科学を斬る!リターンズ p50-109

この中の特に、
p92-97 ニセ科学水商売業者との裁判 天羽優子
P104-109 疑え!グラフ 大西淳子

にご要望の回答に近い記事が掲載されているかと思います。よければ一度ご覧下さいませ。
(回答日時:2015/05/16 08:54:46)

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