ホーム » サプリメント » グルコサミン

グルコサミン

言説の一般的概念や通念の説明

語句説明

 本項では、近年メディアを中心に広まっているグルコサミンの健康有効性について評定する。サプリメントをはじめとした経口摂取によるグルコサミン言説では、その効果を関節症全般に広げているが、主要な研究が行われているのは「変形性膝関節症」という特定疾患への有効性においてである。
 ここで、「変形性膝関節症」について簡単に説明する。人間の関節、つまり骨と骨を繋ぐ部分には軟骨が存在しており、その軟骨は加齢とともに劣化していく。そして、膝関節において加重の衝撃を支えきれなくなると「変形性膝関節症」という疾患を発症することとなる。
 変形性膝関節症の自覚症状についてはここでは言及しないが、グルコサミン言説では前述の劣化を軟骨の主要成分であるグルコサミンを多量に摂取することにより防ぎ、「変形性膝関節症」の予防、治療ができるという旨の主張がなされている。
 以上がグルコサミン健康有効性の中心的言説であり、これを「変形性膝関節症」に限らず、他の関節症にまで効果範囲を広げているのが現在のグルコサミン研究の実態である。そこで、本研究ではグルコサミン言説の核心である「変形性膝関節症」に特に対象を絞って評価を行っていき、他の関節症への言及は極力避けながら論述していく。

効果の作用機序を説明する理論の観点

理論の論理性 (中)

 変形性膝関節症の治療に関して、現代医学的視点から理論的な可能性だけを考慮するならば、たとえば、膝関節に直接注射すれば一過性の健康効果は期待できるかもしれない(本項で主に述べるサプリメントと単純比較はできないが)。しかし、それを食べることで実現しようというのは、別問題である。人間は食べた物質がそのまま体中に行き渡るような構造にはなっていないからだ。グルコサミンを体内に取り入れたからといって、すぐにグルコサミンのまま身体の各部位に配分されるわけではない。
 たとえば、人間は一日に三〇〇~四〇〇グラムのブドウ糖(グルコサミンはブドウ糖の誘導体である)を摂取している。しかし、経口摂取サプリメントのグルコサミン含有量はたかだか一~二グラム程度に過ぎない。よって、グルコサミンサプリメント程度の微々たる量をいくら摂取しようと、それが広く体内に輸送されたのち、膝で十分な量のグルコサミンを確保できるか疑問が残る。
 以上を総合的に判断して、グルコサミン言説の論理性は中程度と評価する。ただし、これはグルコサミン理論が合理的説明に基づいているという意味ではなく、あくまで理論的可能性のみを考慮したうえでの評定であることを付け加えておく。

理論の体系性 (低)

 グルコサミン言説の多くでは、体内におけるグルコサミンの生成過程が希望的観測に基づいており、不明瞭な面も多い。論理性項目でも述べたが、そもそもある特定物質を摂取したのち体内にそれがそのまま反映されるのはビタミン類やDHAなどごく一部の成分における仕組みに過ぎない。特に、タンパク質やブドウ糖などは消化吸収されたのちに身体全体に必要な各物質に再生成されるため、グルコサミンを大量に摂取したからといってそれがそのままヒト体内の「必要部位(疾患を抱えている部分)」に対して再生成されると考えるのは楽観的で希望的観測である(ただし、動物実験においてはこうした傾向が示されており、人体への有効性についても示唆されてはいる)。
 以上の理由からグルコサミン研究の他の科学的領域との体系性については低評価とするが、これは暫定評価であることを付け加えておく。

理論の普遍性 (低)

 信頼できるグルコサミン研究において、現在までのところ軽度の変形性膝関節症の治療においてのみ有効性が示されている。しかし、重篤な症状が改善したとの研究報告はなく、予防効果においても同様の評価がされている。よって、グルコサミン言説の効果範囲は極めて狭く、普遍性も低いことがいえる。
 さらに、グルコサミン言説で一般に広く蔓延しているのは「関節における病気全般」に対してであるが、現在のところ軽度の変形性膝関節症においてのみでしか有効性が示されていないことから、普遍性を装っている問題さえがある。

実証的効果を示すデータの観点

データの再現性 (低)

 データの再現性という面ではグルコサミンはまだまだ研究不足である。たとえば、利害関係者のみで構成された団体における研究ではグルコサミン言説を積極的に肯定しているが、実際の研究内容は「個人の感想」といったおよそデータとはいえないものが見受けられる。
 第三者からのチェックのある信頼性の高い研究ではデータの再現性において概ね否定的な結果を示しており、特に変形性膝関節症の予防において肯定的な見解を示している研究報告はない。
 ただし、軽度の変形性膝関節症の治療においては若干ではあるが肯定的なレビューもあり、今後の研究報告次第では再現性において再評価が必要な事態も考えられる。しかし、冒頭で述べたように現在までのグルコサミンの有効性研究ではデータの再現性は低評価とするのが妥当だろう。

データの客観性 (低)

 グルコサミン研究について、優れた客観性を保った実験でその有効性について肯定的な結果を示した実験報告はわずかである。
 ヒトでのRCT(無作為化比較対照試験)が行われている研究もあるが、その多くは否定的な結果に終わっており、有効性を示している研究の多くは他の要因での効果を排除しきれていない。
 また、医学的研究においても症例対象研究が主要となっており、コホート研究などでの予防医学的観点からの研究は皆無といってよい。

データと理論の双方からの観点

データ収集の理論的妥当性 (低)

 そもそもグルコサミンがどのような関節症に対して有効であるのかということを明確に特定している研究報告自体が極めて少ないことは問題だろう。あいまいな表現を用いて様々な関節炎、関節症に効くかのような誤信を抱かせる研究が多く、その効果も自覚症状の軽減をアンケート調査などに頼って行っているものが多い。

理論によるデータ予測性 (低)

 グルコサミン硫酸塩とグルコサミン塩酸塩では身体への作用機序が異なることがデータから示唆されている。しかし、理論面での明確な区別のないまま研究が進められており、そういう意味で予測性は低い。さらに、たとえば米国におけるグルコサミン塩酸塩の扱いは、FDA(アメリカ食品医薬品局)が否定的な見解を示されていたりと、“まだよくわかっていない”というのが実態だといえる。
 対象となる理論に対して実験データがあいまいなまま検証されている現状においては、予測性は低評価とする。

社会的観点

社会での公共性 (中)

 有効性を過度に主張するグルコサミン研究の背景には利害関係者からの資金援助や企業が商品化するために行った“研究”である場合が多く、これはグルコサミン研究のメタ分析においても明らかになっている(1)。変形性膝関節症の有効性に特定した研究においても前述の傾向性は当てはまり、特に予防効果があるとした研究ではそうした公共性が保たれているものはないといってよい。
 いわゆる健康食品というカテゴリー内でのグルコサミン研究において、米国ではFDA(米国食品薬品局)、日本では国立健康・栄養研究所といった信頼できる団体では“どちらともいえない”や“まだよくわからない”といった玉虫色の見解を発表している。
 以上を総合的に判断して公共性は中程度と評価するが、「学術団体」を称した営利団体の研究には留意する必要があるだろう。

議論の歴史性 (中)

 グルコサミン言説では、欧米各国では長くその効果が認められてきた、といったものがある。確かに、特に欧州においてグルコサミン(硫酸塩)の効果が肯定的に捉えられていることも見受けられるが、こと「議論」という意味では、それが成熟したものであるとは言い難い。肯定的な効果があるようにみえるから、なんとなく使われているようにも見受けられ、反省的な議論が展開されてはいないだろう。
 日本においてはそれがさらに顕著であり、塩酸塩と硫酸塩との区分においてすら誤解されたまま流布され、それへの批判的な議論も見受けることができない。

社会への応用性 (低)

 日本で中心的に研究されているグルコサミン塩酸塩は、国の「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質」として指定されている(3)。これは「食薬区分」において、医薬品的効果を謳わなければ「食品衛生法」の管理下に置かれるという意味である。
 逆に「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」にカテゴライズされているものは、いわゆる健康食品(「サプリメント」など)として使用できない(こちらは「医薬品医療機器等法(旧薬事法)」の規制の対象となる)。
 より厳格な「医薬品医療機器等法(旧薬事法)」に抵触しその規制を受けてしまうため、「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質」に区分されているものにおいて、その効果について強い主張は行いにくいはずだ。
 しかし、日本ではその事実を逆手に取り「サプリメント」として広く流布されることを肯定しているかのような言説が多く見受けられる。それらはメディアを利用した宣伝戦略に多く見受けられ、そうした実態が、社会一般がグルコサミン言説に対して十分な知識を得るための機会を逸する要因となってしまっているとさえいえるだろう。
 以上から、グルコサミンの社会での応用性については低評価とする。メディアを使った宣伝戦略、市場開拓がグルコサミン言説の科学的信頼性を決定的に損なっているといってよいだろう。

総評

疑似科学

 グルコサミン研究の最大の問題点は、サプリメント市場を意識した研究姿勢と体制である。例えば信頼性のある研究でも、ごく軽度の変形性膝関節症の治療効果においてのみ若干有効性のあるというレビューは発表されている(2)が、それを重度の変形性膝関節症の治療や予防効果、そして他の関節症にまで効果範囲を広げて主張しているのが現在の多くのグルコサミン言説である。これでは単に市場規模を広げるための説明であり、科学的研究とはいえない。
 今後グルコサミン言説が科学的な研究姿勢を整えるためには、サプリメント市場との決別、効果範囲を特定疾患に絞るといったことが必要である。そして消費者においても、安易で過激な主張に惑わされない知識を身につけることが重要である。

参考文献:

(1)「Effects of glucosamine, chondroitin, or placebo in patients with osteoarthritis of hip or knee: network meta-analysis」 Simon Wandel, Peter Jüni, Britta Tendal, Eveline Nüesch, Peter M Villiger, Nicky J Welton, Stephan Reichenbach, Sven Trelle BMJ 2010;341:c4675
(2)「Randomised, Double-Blind, Parallel, Placebo-Controlled Study of Oral Glucosamine, Methylsulfonylmethane and their Combination in Osteoarthritis.」 Usha PR, Naidu MU Clin Drug Investig. 2004;24(6):353-63.
(3) http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syokuten/040601/betu.html 「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)」の食品衛生法上の取扱い 厚生労働省 『ひざの痛い人が読む本』 井上和彦・福島茂
『グルコサミンはひざに効かない』 山本啓一
『「リスク」の食べ方』 岩田健太郎

情報提供、コメント、質問を歓迎します。

(最終更新日時2016年5月31日)

投稿

投稿&回答

「理論の論理性」の中でグルコサミンはブドウ糖の一種との表現がありますが、正確にはブドウ糖の誘導体ではないでしょうか。それともこの項の中ではブドウ糖とはグルコースのことでなく、グルコースの誘導体全般を指す語として使用しているのでしょうか。 (投稿者:tokuno)

tokuno様
ご指摘の通りです。正確にはブドウ糖の誘導体、あるいはグルコースの一部(ヒドロキシキル基)がアミノ基に置換したアミノ糖ですね。
文脈上、簡単な表現としたつもりでしたが語弊があり、ミスリードの元でした。
「ブドウ糖の誘導体」という表現に訂正いたします。
ありがとうございます。

海外ではグルコサミンはどのような扱いなのですか? (投稿者:swc11)

グルコサミン硫酸塩についての研究は継続して行われていますが、グルコサミン塩酸塩については世界的に否定的な見解で落ち着いています。

1 2 3 4 5

      ※投稿された記事やコメントは運用管理者が承認した後、掲載されます。