評定項目の出典

 本研究における評定項目は、トーマス・クーンの「客観性、価値判断、理論選択(※『本質的緊張2』415項より)を出発点としつつ、独自の考察を加えてその発展的改訂を目指しております。
 「客観性、価値判断、理論選択」にてクーンは、個別「科学」を決定的に区別する基準はないとしながらも、よき科学理論の特徴について次のように述べています。[以下部分的に抜粋]

  • 精確性(accuracy)……理論は精確でなければならない。すなわち、理論が扱うその領域内において、理論から導出される帰結は既存の実験や観察の結果と一致していなければならない。
  • 無矛盾性(consistency)……理論は無矛盾でなければならず、しかも内的に自己矛盾がないだけではなく、関連した自然の諸側面について通常受け入れられている他の理論と両立するものでもなければならない。
  • 広範囲性(scope)……理論は幅広い適用範囲をもつものでなければならない。特に理論の帰結は、その理論によって説明しようと最初にもくろまれていた特定の観察や法則や下位理論をはるかに超えたものでなければならない。
  • 単純性(simplicity)……(広範囲性と)密接に関連することではあるが、理論は単純でなければならず、それなしには個々ばらばらで全体として混乱したものとなってしまうであろう現象間に秩序を与えるものでなければならない。
  • 多産性(fruitfulness)……さほど標準的とは言えないが、実際の科学上の決断においては特に重要なことの一つを挙げよう。それは、理論が新しい研究上の発見を実り豊かにもたらす多産なものでなければならないということである。すなわち理論は、新しい現象、あるいは、すでに知られている現象の中からまだ気づかれていない関係を明らかにできなければならない。

 これらと、カール・ポパーの反証可能性(falsifiability)、心理測定でよく知られている「信頼性と妥当性」の概念、科学社会学でのロバート・マートンによるマートン・ノルム、及び村上陽一郎氏の考察(『科学者とは何か』など)、本研究の着想の原点であるシック&ヴォーン『クリティカルシンキング 不思議現象篇』における科学の「保守性」という側面(これはイムレ・ラカトシュを参考にしていると思われる)などを参考にしながら、評定基準は以下のような(おおよその)対応関係となっております。

トーマス・クーン「客観性、価値判断、理論選択」:

精確性➡理論の論理性、データの再現性、データの客観性

無矛盾性➡理論の論理性、理論の体系性

広範囲性➡理論の普遍性

単純性➡理論の普遍性

多産性➡理論の普遍性、社会での応用性

カール・ポパーによる「反証可能性」:

反証可能性➡理論によるデータ予測性

心理測定における「信頼性と妥当性」の概念:

信頼性➡データの再現性

妥当性➡データ収集の理論的妥当性

シック&ヴォーン『クリティカルシンキング 不思議現象篇』から:

保守性➡理論の論理性、議論の歴史性

ロバート・マートンの「マートン・ノルム」より:

公有性・利害の超越➡社会での公共性、社会への応用性

普遍主義➡理論の普遍性、データの客観性

系統的懐疑主義➡議論の歴史性

村上陽一郎『科学者とは何か』『人間にとって科学とは何か』『科学の現在を問う』などから:

社会的観点➡社会での公共性、議論の歴史性、社会への応用性

 「客観性、価値判断、理論選択」においてクーンは、データの観点を「精確性」という語にて集約させていますが(※これは当該文献では科学における理論選択を主題として書かれたものであるためだと推察できます)、本研究ではデータの観点をより強調するため、心理測定においてよく知られている「信頼性と妥当性」の概念を取り入れながら、再現性、客観性、という語を新たに定義しました。

※なお、これらの評定基準については現在も繰り返し議論しております。

参考文献:『本質的緊張1・2』トーマス・クーン
『The Essential Tension: Selected Studies in Scientific Tradition and Change』Thomas S. Kuhn
『科学革命の構造』トーマス・クーン
『科学的発見の論理上・下』カール・ポパー
『社会理論と社会構造』ロバート・K・マートン
『クリティカルシンキング 不思議現象篇』T・シック・ジュニア、L・ヴォーン
『方法の擁護―科学的研究プログラムの方法論』イムレ・ラカトシュ
『心理学研究法―心を見つめる科学のまなざし』高野陽太郎
『科学者とは何か』村上陽一郎
『人間にとって科学とは何か』村上陽一郎
『科学の現在を問う』村上陽一郎


『科学哲学への招待』野家啓一
『クーン――パラダイム』野家啓一
『入門 マインドサイエンスの思想』石川幹人・渡辺恒夫