ヒーリング
言説の一般的概念や通念の説明
語句説明
ヒーリングとは、心霊ヒーリング(Psychic Healing)とも呼ばれ、手かざしや祈りなどの方法で、疾患の治癒や緩和をする代替医療の総称である。宗教や伝統的儀礼の文脈では、超自然的な力による効果として語られることもある。
効果の作用機序を説明する理論の観点
理論の論理性 (低)
ヒーリングがどのようになされるかの仮説が設定できていないので、論理性はうんぬんできない。しかし、プラセボ効果のように、明らかに存在すると見られている効果でさえも、その作用機序は不明であるので、現時点では過大な要求とも思える。
理論の体系性 (低)
遠隔の祈りによるヒーリングの場合、これまでの伝統的な物理学では受け入れられない「時空間を越えた作用」が想定されており、物理学の諸法則に整合的でない。手かざしの場合は、何らかの皮膚感覚で影響すると考える余地があるが、それにしても治癒というところまで説明できる、自然科学と接続した理論は見当たらない。
理論の普遍性 (低)
ヒーリングの対象疾患はきわめて広いと想定されている。しかしそれを支える理論がないため、現状では評価できない。
また、医学的な観点からすると、対象疾患がきわめて広いことがむしろ胡散臭い。
実証的効果を示すデータの観点
データの再現性 (中)
直接手かざしする実験の場合、患者に対して心理的影響を及ぼすので、プラセボ効果であることが疑われる。患者に知らせずに手かざしする実験や、遠隔地から祈る実験などが実施されているが、安定した結果は得られていない。そこで小久保秀之は、手かざしの対象を人間の患者ではなく、切ったキュウリの断片にして、手かざし後のキュウリの活性度測定を行ったところ、安定した実験データを得ている。これらを総合的にみて、再現性は中程度と評定できる。
データの客観性 (低)
プラセボ効果が疑われる実験では、客観性が保てない。上の小久保の実験も、まだ他の研究者による追試がなされていない。この点から客観性は低いと判断する。
データと理論の双方からの観点
データ収集の理論的妥当性 (低)
プラセボ効果を排したうえで、疾患の治癒や緩和をどのような方法で管理実験できるか、その方法が確立されていない。上述の小久保の実験では、キュウリが長持ちする度合いを測定することで、ヒーリング効果を推定しているが、その妥当性もまだ議論がある段階である。
理論によるデータ予測性 (低)
確定した理論がなく、理論に基づく予測が立てられない状態である。
社会的観点
社会での公共性 (高)
ヒーリング現象はかねてより超心理学の研究対象であり、ESP研究のひとつとして「病変部の人体透視」が研究され、生体に対する念力は「バイオPK」と呼ばれて研究されてきた。しかしヒーリングは最近、補完医療や代替医療のひとつと見られる向きがあり、研究発表は補完代替医療の論文誌(Journal of complementary and alternative medicine)に発表される傾向がある。日本では、国際生命情報科学会で関連研究が発表されている。このように、研究を推進する社会的仕組みは、他の科学分野と同様によく整備されていると言える。
議論の歴史性 (中)
ヒーリングの研究結果は、上記学術論文誌や、他の関連した論文誌に科学論文が掲載されている。アメリカを中心に、補完代替医療が世界的に推進されている状況のもと、オープンに議論できるような形で研究が蓄積されつつあると言える。
社会への応用性 (低)
ヒーリング能力があると商売にしている人がいるとすれば、疑ってかかるほうがよい。現時点ではヒーリング効果がわずかにあったとしても、どのような疾患にどの程度効果があるのかさえ明らかでない。それでは実用に供することができない。
総評
疑似科学
ヒーリング研究は、科学的なアプローチがとられはじめている。しかし、いまだデータが十分でなく、一部に肯定的データが検出できているとしても、その結果を理論構築につなげるのは難しい。将来的に科学となる可能性は否定できないが、現時点でヒーリング現象を論じるのは疑似科学療法を助長する恐れがあり、社会的に大きな危険がある。そのため、あえて疑似科学としておく。
参考文献:
『潜在能力の科学』 山本幹男ほか
情報提供、コメント、質問を歓迎します。
(最終更新日時2015年8月17日)
投稿
投稿&回答
心霊手術の回答ですが、少しはしょりすぎていると思います。フィリピンの心霊手術とブラジルの心霊手術は分けた方がよいでしょう。
フィリピンでは手品を使った技法が中心ですが、ブラジルの場合は実際にメスやハサミを使って「手術」を行います。
よく知られているドクター・フリッツの例では、メスで皮膚を切開したり、注射針を眼窩に差し込んだりします。
また、ドナ・シセラの例では、麻酔無しで頭皮を切開し、頭蓋骨に穴を空けるという「手術」を行います(痛いし、出血もする)。
いずれも80年代に記録映像が出版されています。
ドナ・シセラのように頭蓋骨に穴を空ける「治療」は、化石人類の時代から行われていたと推定されます。
たとえば、北京周口店の洞窟で発掘されたクロマニョン人の化石には、頭蓋骨に空けた穴が残っており、また穴を空けた後に何年か生きていたこともわかっています(化石の複製が上野の国立博物館にあります)。
(投稿者:クビーニョ,投稿日時:2017/01/05 20:36:45)
ご投稿ありがとうございます。
参考になります。
「地域性がある」ということなのですね。
ブラジルの例で、患者はショック死しないのか気になります。
(回答日時:2017/01/10 10:27:12)
実際にヒーリングを行い、その効果の調査を行っている各組織と、明治大学科学コミュニケーション研究所様が連携をとり研究をすすめていくことも肝要かとおもいます。
(参考)
実際にヒーリングを行い、その効果の調査を行っている各組織
財団法人日本心霊科学協会
http://blogs.yahoo.co.jp/shinrei_jimu/45933892.html
スピリチュアリズム普及会
http://spiritualhealing-volunteer.jp/
(投稿者:spirit,投稿日時:2016/07/09 13:24:15)
ありがとうございます。
前向きに検討いたします。
(回答日時:2016/07/11 16:54:18)
歴史的には著名なヒーラーとして
ハリー・エドワーズ
カール・ウィックランド
エドガー・ケイシー
などがいます。
彼らは膨大な治癒の実例を残しています。
プラセボ効果・キュウリの活性度測定の事例にとらわれることなく、ヒーリング問題の要といえる実際のヒーラーによる治癒の実例を検証していくが必要とおもわれます。
(投稿者:spirit,投稿日時:2016/06/28 19:19:36)
(回答日時:2016/07/08 10:30:45)
初めまして。サイト拝見させていただきました。
多くの、今まで疑わしいと思っていたものをきちんと疑似科学だと根拠も添えて書かれており、感動いたしました。
ところで、本記事の「ヒーリング」の枠組みには、気功を含んでおりますでしょうか。疑問に思いましたので質問させていただきます。
私は、個人的に興味があって、様々なヒーリングを研究しています。視点としては、科学的立場より、彼らが「プラセボ効果をより引き出すためにいかにそれらしい理屈付けをつくっているか」という方向に興味を持っております。
その視点から行くと、社会への応用性のところで述べられている「実用に供することができない」というのは、やや行き過ぎた判断かと思います。プラセボ効果であろうとも効果があればそれでよいとの考えの下、適切な医療の枠組みの葉にで補助的な使用ならば、構わないのではないでしょうか。
また、アメリカなどでこのような疑似科学療法が流行る背景として、皆医療保険の制度がなく、正規の医療を受けられない貧困層にもてはやされていると聞きます。疑似科学とはいえ、医療保険制度に欠陥がある社会では、あぶれた人々の受け皿的役割もするのではないでしょうか。
(投稿者:れおぽるど ふぉん ざっへる まぞっほ,投稿日時:2016/05/20 16:36:06)
ご投稿ありがとうございます。
なるほど。非常に斬新な視点と思います。
ご指摘の件について、共感いたします。ただ、この点は微妙な問題ですね。
ヒーリングなどがプラセボ効果を「上手に使っている」という説明は非常に説得力があると思います。ただ、その場合、サイトで扱っているおおくの言説にも同じような理屈が通用できてしまいますね。
なので、この問題は「評定の枠組み」という前提から見直さなければなりません。こうした洗練化については現在も案出中ですので、気長にお待ちいただければと思います。
有意義なご意見ありがとうございます。
(回答日時:2016/05/24 14:30:51)
心霊手術もヒーリングの一種ですか? (投稿者:swc16)
心霊手術は、フィリピンやブラジルなどで伝統的に見られる手術で、麻酔もかけないまま体内の病変部をあざやかに取り除き、傷跡も速やかに治癒するというものである。逸話的に語られており、単なるトリックの可能性が大きいが、もし事実なら、ヒーリングとして研究すべき対象と思われる。