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電磁波有害説

言説の一般的概念や通念の説明

語句説明

 電磁波有害説とは、一般的な通念としての「電磁波」が「ヒトの健康」に対して何らかの悪影響を与えているとする言説である。
 ここでの「電磁波」とは、たとえば送電線からの変動磁場、ラジオや携帯電話から出ている電波、マイクロ波や赤外線などのことを意味しており、X線やγ線などの放射線の一種であるものについては本項目では対象としない(医療用のCTやレントゲンも対象外である)(1)(2)。これは、後者については多量に浴びた場合、健康に悪影響を与えることが既に明らかになっており、また、ここで言われる電磁波有害説とは意味を異にするものだからでる。
 さらに、電磁波有害説で語られる「健康」の指標には、特定疾患への罹患率の上昇から、とにかく何か調子が悪い、といった曖昧なものまでさまざまである。明確な害があるものとは違い、「何らかのリスク」を“あり”か“なし”かにすることにおいては個人の観念に頼る部分が大きいため、本評定でも極端な断定や言い回しは避けながら記述する。
 また、電磁波有害説では他の多くの評定項目とは違い「効果」ではなく「害」を評定するものであるため、以下の各下位項目においてもその前提を留意されたい。

効果の作用機序を説明する理論の観点

理論の論理性 (低)

 害があるという論理については、有力な仮説は存在しない。たとえば、X線やγ線に害があるのだから、携帯電話の電波などにも害があるだろうという類推に留まる主張も多い(3)。
 現在までのところ携帯の電波による物理的影響としては、暴露物質の温度上昇程度しかはっきりとした科学的知見はない。日常的に暴露する大きさの電磁波では誤差程度の温度上昇しか起こらないため、その程度の温度で被害が出るとは一般的には考えにくいといえる。

理論の体系性 (低)

 X線やγ線などとは違い、電波などによる(体感できるほどの)被害があるとするならば、少なくとも現代の日本社会においてヒトがまともに社会生活を送ることは困難だ。そういう意味で、害の原因を説明する物理学や生理学と整合性のある有力な仮説はないといえる。
 さらに、ごく一部の電磁波に過敏な体質のヒトを研究できていない現状では、体系性についても評価しにくいというのが実際だろう。

理論の普遍性 (低)

 害の原因となる有力な仮説が存在しないため、どの程度注意が必要か、何によって防げるかなど、理論の適用範囲も不明である。

実証的効果を示すデータの観点

データの再現性 (低)

 2011年の国際がん研究機関によると、電磁波(携帯電話やラジオ波)と発がん性において、若干であるが肯定的な相関関係が出ているものもある。しかし、多くの研究では否定、あるいは慎重な態度をとっており、臨床医学においても、“よくわからない”というのが実情である(1)(5)。というのも、本来ならば、仮に電磁波に対して敏感な体質をもっており“現に”症状がある患者を対象とした研究が行われることが望ましいのだが、「害がある」ことを確かめるための人体実験は道徳、倫理的に承認されないためである(4)。
 本評定では上記の発がん性との関係を考慮し、より安全面を重視するが、多くの人にとってはほとんど何の影響もないということが研究によって支持されていることは追記しておく。

データの客観性 (低)

 集められているデータの多くは症例対照研究であるため、実証主義に基づくデータとしては今一つ“弱い”。最も有名な研究の一つとして、コロラド州デンバーで行われたワルトハイマーらの調査(送電線による健康被害の調査)があるが、その手法に対する疑問が指摘されており、結局「相関関係はよくわからない」と結論付けられている(1)。
 他にも、「サビッツ論文」「カロリンスカ論文」などの電磁波と健康被害に関する衝撃的な研究は多くあるが、どれも“よくわからない”や“たとえ影響があったとしても、その範囲・程度は極めて小さい”などとしている(1)。

データと理論の双方からの観点

データ収集の理論的妥当性 (低)

 電磁波が有害であるという言説において支柱となっているのは、“今、現に”症状があるという症例である(3)。いわゆる過敏症とされる、そうした人々からの報告を拠り所にして研究が進められてはいるものの、妥当なデータが収集されているかについては疑問が残る。 というのも、そうした症状が電磁波による影響であるということを統制できているとは言い難いからだ。また、仮に電磁波による影響であるにしても、そのリスクはどれほどのものなのかを明示化できるような定量的データともいえない。

理論によるデータ予測性 (低)

 電磁波の強度に比例した被害の拡大など、単純な予測は可能ではあるが、それ以上の具体的な予測はできていない。たとえば、どの程度の強さの電磁波をどのくらいの期間、どういう人が曝露したら「害」になるのかという作用機序が明らかになっていない以上、予測されるデータが収集できる状況にない。

社会的観点

社会での公共性 (低)

 電磁波有害説を唱えている肯定派(つまり、電磁波は有害であるということを積極的に主張しているもの)による研究団体は確認できない。総務省が電磁波における人体への影響についての見解を述べているが、それも言説への否定、あるいは慎重な姿勢であり、電磁波が人体に主観的に実感できるほどの悪影響を与えることについて、少なくとも積極的に肯定的な姿勢ではないことが伺える。
 また、ウェブサイト上で電磁波有害説を唱えている肯定派においても、素性がはっきりしないしないことが多いため、社会的な公共性という面において高評価を与えることはできない。
 ただし、リスクについての研究が全くないわけではなく、前述の総務省をはじめ、WHO等でも電磁波の与える「影響」についての報告自体はある。

議論の歴史性 (中)

 1990年代に各国で大規模な科学的調査が行われている。特に米国での研究は多く、米国物理学会や全米科学アカデミー、米国学術研究会議、米国国立ガン研究所などで行われている。携帯電話やラジオ電波による健康への悪影響があるかどうかを判定するための議論は収集されているとはいえる。
 ただし、こうした議論には建設的なものとしてなされているとは言い難い面もあり、特定のリスクが究明されないまま一般に対して恐怖(あるいはその逆)のみが先行しているという実態もある(6)。

社会への応用性 (中)

 電磁波有害説において、それ自体(つまり電磁波は有害だということ)に警鐘を鳴らすことは、社会的には決して悪影響ばかりとは言えないだろう。特定の人々に対し、わずかながらでも被害が及ぶ「可能性」があるならば、そのような考察は既になされていて然るべきともいえる。
 確かに、異常な恐怖心を煽ったり、それにより何の効果もないインチキ製品を売ったりと詐欺まがいの商法の温床となりかねないが、製品開発側への抑制ともなり得る。
 先にも述べたが、本来ならば症状がある特定個人を研究協力者とするのが科学研究における理想であるが、そのようなことへの社会的な承認を得るのは困難である。そのため、多くの人には影響がないという現状を支持するほかない。

総評

判断保留 (ただし、疑似科学性の高い)

 現在までの科学研究は、健康への悪影響を肯定はしないというものとなっている。再現性のあるとしたもの、実際に症状がある人を対象としても、結局のところ“よくわからない”のが実情であり根拠としては非常に弱いものでしかない。現状、電磁波(携帯電話の電波などの波長の長いもの)で健康被害が起こるという主張は、理論が整備されてないうえに、否定的データも多くあり、ゆえに言説それ自体は疑似科学と言える。
 ただし、多くの人には何の影響がなくとも、ごく一部の「過敏」な人が何らかの害をうける可能性が(非常に稀であるが)ある。
 語句説明でも述べたが「電磁波有害説」では他の項目とは違い、「効くか」「効かないか」ではなく「害があるか」「害がないか」を評定するものである。これは、「科学」という方法論上の問題と、それを扱う倫理上の問題とが混同していることが根本にあるといえる。本来であれば、「科学」という枠組みは善・悪とは区別される問題であるが、科学社会学で論じられているように、実質的にそれらは切り離せないという現状がある(4)。それに拍車をかけるように、電磁波害悪・有害説に関しては極端な主張が多く、中立的な議論が形成されにくいという実態もある。
 安全面(安全性を一様に評価するのは現実的に困難である)を考慮し、現状では「判断保留」とするものの、こうした問題の発展的解消は極めて悩み多きものにならざるを得ないだろう。

参考文献:

(1)『携帯電話で脳は破壊されるか』 大朏博善
(2)『電波とはなにか?』 後藤尚久
(3)『携帯電磁波の人体影響』 矢部武
(4)『安全と安心の科学』 村上陽一郎
(5)http://www.kyorin-pharm.co.jp/prodinfo/useful/doctorsalon/2015/ 「電磁波の健康被害」山口直人 ドクターサロン59巻 2月号(1.2015)
(6)『電磁波の健康影響』 三浦正悦
『わたしたちはなぜ科学にだまされるのか』ロバート・L. パーク 主婦の友社
『懐疑論者の事典(下)』ロバート・ T・キャロル 楽工社

情報提供、コメント、質問を歓迎します。

(最終更新日時2016年6月13日)

投稿

投稿&回答

送電線から漏洩する超低周波電磁波は、国際がん研究機関から、発がん性2B(人に発がん性があるかもしれない)に分類されています。通信などで使われる高周波電磁波も、2Bと評価されています。これまで蓄積されてきた科学的知見から、予防的措置として、生活環境中の電磁波に対して様々な措置を講じている国、自治体は、数多くあります。人の健康に対する有害性について、科学的知見が不十分であるという評価であれば理解できますが、「疑似科学性の高い」と評価するとは、貴サイト運営者の勉強不足のためなのか、そもそも科学のなんたるかを理解していないためなのか…。 (投稿者:a.t.,投稿日時:2017/01/30 13:00:16)

ご投稿ありがとうございます。
ご指摘の件ですが、まず、国際がん研究機関が公表しているのは「発がん性に関する科学的根拠の確からしさ」であって「発がん性の強さ」ではありません。
その基準に従い、超低周波磁界が2Bという「発がん性があるかもしれない」にカテゴリされているのは事実です。しかし、重ねますがこれは発がん性の強さを担保しているわけではなく、「無視できるリスクかもしれないが、可能性はある」と受け取っておくのが妥当に思えます。現に、同じ2Bのカテゴリーには「漬物」や「コーヒー」なども分類されています。
また、超低周波電磁界について、疫学研究では「限定的」という評価ですが動物研究では「不十分」とされています。少なくとも現時点で、「害がある」ことを主張し、一般化するに十分な根拠はないように考えます。

以下のリンクが参考になるかと思います。
http://www.jeic-emf.jp/explanation/1052.html (回答日時:2017/02/04 10:10:54)

私のサイトを紹介してくださり、感謝します。
昨年、以下のサイトにURLを変更しました。
http://denjiha-emf.o.oo7.jp/index.htm (投稿者:BEMSJ,投稿日時:2017/01/09 17:02:42)

はい。
ご投稿ありがとうございます。 (回答日時:2017/01/10 10:10:25)

「電波が当たると痛みを感じる」「発熱する」「頭痛がする」「耳鳴りがする」etc...
などの症状は、統合失調症の症状に含まれるものではないかと個人的に推察しています。
統合失調症の陽性症状では幻覚や妄想、思考障害などが引き起こされます。その中に「電磁波を体で感じる」といった幻覚、「電波によって体に異変が起こる」という体感的な幻覚や妄想を発症しているケースが多いようです。
統合失調症を判断する指針として利用されている、シュナイダーの一級症状にも、「身体に影響を与えられている体験」「妄想的知覚」が上げられており、電波過敏症と呼ばれている症状に最も近いものではないかと思われます。
また、これと同じように統合失調症患者の症状として発現した都市伝説的なものに「集団ストーカー」というものもあります。
これは、どこかの組織に集団でストーカーされている、といった妄想を抱くものであり、電磁波過敏症とほぼ同時期にネットやマスコミによって拡散したものと思われます。
その集団ストーカー妄想にも、「ストーカーに電波兵器で攻撃される」「電波攻撃でしびれや痛みを感じる」といった妄想、幻覚もあるようで、電波過敏症の症状に非常に似通っているように思います。
話は少しそれてしまいましたが、以上を踏まえて、この症状の解明には患者に精神病の診察を行うなどの方法で、それが統合失調症によるものか、そうでないのかというアプローチが必要なのではないかと考えています。
つたない意見で申し訳ありません。 (投稿者:keishi_masaki,投稿日時:2016/09/29 08:43:38)

ご投稿ありがとうございます。
私もほぼ同意見です。
電磁波有害説の場合、それを訴える側が「被害者」となってしまっており、「患者」になりきれないことも問題の一つととらえています。
こうした信念体系の形成には、ある種「陰謀論」じみたものが背景にあり、建設的な議論が進めにくいようです。
個人的には不安障害や強迫性障害も症状として近いと考えますが、「被害妄想」や「陰謀論」は統合失調症に顕著ですし、はっきりしたことはわかりませんね。
なんにせよ、「本質を追い求め被害を訴える」という志向から「現前する症状を治す」といった議論の方向性のほうが、実は解決に近いのではないかと考えます。
傾聴に値するご意見ありがとうございました。 (回答日時:2016/09/30 15:30:24)

貴サイト、興味深くかつ論理展開を含めて楽しく拝読させていただいています。

小生は、化学ベースの環境技術者です。また理系学生・社会人技術者の技術者倫理教育にも携わっています。

そのような小生の経験からすれば、電磁波有害説に関しては、電磁波(光子)エネルギーの観点からの議論が少ないように思います。

「生物学徒」さんの述べているように、巷間議論されている「電磁波有害説」は、E=hνに関係なく議論される限りにおいては「似非科学」と断じて良いでしょう。

但し、一部保留を付けるとすれば、貴議論では、電離作用のある波長だけを避けていらっしゃいますが、紫外線による角膜炎(溶接など)、人体の皮膚ガンの発症、赤外線の目の白内障、電磁波の誘導加熱等、波長と強さを定義した上でないと論理として成り立たないと考えます。

また電磁波の特殊な形態であるレーザーの論議も必要かと思います。

また、貴「電磁波有害説」で触れられていないのが、労働衛生上の諸基準とその根拠となった事例があります。日本産業衛生学会や米国ACGIHの電磁波の基準は、例えばレーダーサイトに勤務する兵士の健康影響などから有害性が疫学的に見いだされ、その後機銃が決められたものもあります。

小生が上記で「E=hνに関係なく議論される限り」としたのは、電離放射線以外の電磁波でも様々な波長と強度により影響が異なることからです。

波長と強度によっては影響がある、ということが、波長にも強度にも関係なく「電磁波は有害である」という言説に繋がっているのだと小生は推測しています。

そうであれば、「電磁波有害説」を議論するときにはもう少し厳密な論理展開が必要かと感じます。 (投稿者:YOSHI,投稿日時:2016/09/10 23:45:35)

ご投稿ありがとうございます。
綿密な分析、またご指摘です。
「電磁波有害説」において難しいのは、何を基準に「害」を推し量るかにあると思われます。本項では一応「ヒトに対しての健康被害」としておりまして、何らかの症状に対して「それが電磁波に起因しているか」を基準としていますが、まだ厳密な議論までは至っていないとも思いますね。
ご意見参考にいたします。ありがとうございます。 (回答日時:2016/09/12 08:24:06)

貴サイトは以前から興味深く拝見させていただいておりましたが、電磁波過敏症への判定を《判断保留》へと引き下げたことは嘆かわしく思います。
物理科学知識の乏しい一般の方々ならばまだしも、理系研究者の方々がこのページを見られた暁には、噴飯物でしょう。

電磁波有害説は明らかに疑似科学です。
《電磁波は有害だ!》と不安を煽り、「防護」グッズ等を購入させる悪徳商法のネタにされていることは明らかです。
水素水やプラズマイオン等と同じ類のものです。
本記事にもある通り、これまでに様々な実験が行われているにもかかわらず、(日常生活でさらされるレベルの)電磁波が人体に有害であるとの論理的証拠は得られていません。
X線や紫外線、赤外線がそうであるように電磁波そのものは物理的エネルギーですから、大なり小なり人体に悪影響はあります。しかしながら我々の実生活で浴びる電波はせいぜい5GHz程度まで。それより遥かに波長の短い可視光(約300THz)をこれでもかというほど我々は浴びていますが、通常レベルでは人体に影響はありません。
ご承知の通り、エビデンスのないものは科学界では相手にされません。それが存在すると主張するのであれば、主張する側に証拠を提示する義務があります。
現状、電磁波過敏症の「患者」は客観的に証明不可能な症状を提示したり、果ては陰謀論に結び付けようとする方々も散見されます。
本当に身体的影響があるのであれば、当該患者の身体になんらかの物理的現象が生じているはずですが、そのような話は聞きません。したがって電磁波過敏症というのは疑似科学の範疇を出ません。

貴サイトが判断保留の理由とした条件についても、客観的に評価できない「体験談」ばかりであり、「UFOを目撃した」という証言と同程度の信憑性しかありません。
貴サイトの信用性を毀損されないためにも、電磁波過敏症を疑似科学と断定することをお勧めいたします。

乱文失礼いたしました。
(投稿者:生物学徒,投稿日時:2016/08/19 08:00:00)

ご投稿、ご指摘ありがとうございます。
おっしゃる通りと思います。
また、「思い込み」による被害(症状)であるならむしろ、それを治療する方向に向かえばいいのですが、実際に被害を訴える方は「原因」を追求する傾向性があるようですし……。
総評において、一応、「判断保留(ただし、疑似科学性の高い)」とはしているのは、「実際に症状を訴える人」を慮ってのことだったのですが、逆効果かも知れませんね。
明確に「疑似科学である」としたほうが、問題解決のためには建設的でしょうか?
(回答日時:2016/08/23 09:15:50)

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