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色彩心理学

言説の一般的概念や通念の説明

語句説明

 色彩心理学とは、色によってヒトに喚起される感情が異なる、という言説である。たとえば、赤色は興奮や活発性のある感情を、青色は悲しさや快適な感情を喚起させるといったものである。
 本項評価における前提知識として、そもそも、色彩心理学という学問は通常の心理学体系の中には導入されていないことを、まず先に述べておく。
 しかし、色彩心理学の言説には、視覚心理学の領域や色彩学、認知心理学といった分野から転用されている部分も多く、その中心的言説が何かがわかりにくいのが現状である。
 よって、本項目では色彩心理学の中でも最も積極的に主張されている、色における心理的なイメージを中心に議論を進めていく。また、その色とは色彩心理学上で分類されている単色のものを中心にとりあげる。

効果の作用機序を説明する理論の観点

理論の論理性 (低)

 現在の色彩心理学では、マンセル表記などに基づいた色相、明度、鮮度から色を区別している。この点で、つまり色彩の成り立ちや、知覚的な色の目盛り分割のあいまいさの修正においては論理的だといえ、色彩学の観点からも矛盾した表記ではない。しかし、色彩心理学における最大の主張は、色彩によるヒトの心理への影響であるため、この色彩区分は言説の補強にはならないだろう。
 では、色彩心理学における中心的言説、たとえば、緑色はやすらぎや健康的なイメージ、黄色は明るく陽気なイメージをヒトに与える、といった論理はどのように構築されてきたのか。
 最大の疑問であるその点において、現在まで合理的な説明はない。ある時代における、ある研究者の実験結果がそのまま色の情緒的意味へと直結しているのである(たとえば日本の初期研究では、大正時代の東京帝国大学文学部学生123人を対象としたアンケート調査において、色彩における感情を規定している(4))。そして、このような中では次のような矛盾も起きる。
 紫色は高貴で優雅な心理を想起させる、と色彩心理学では規定している。しかし同時にストレスで不健康なイメージも思い起こさせる、とも主張している。つまり、文献によって異なる解釈がみられ、さらにその接続への説明もないのだ。
 このように、色彩心理学では多くの論理的な飛躍が見受けられるため論理性は低い。

理論の体系性 (中)

 たとえば、「グレーゾーン」という慣用句における社会通念がまずあり、そこからグレー(灰色)という色に対する心理イメージ、ごまかしや不信などを色彩心理学が“後付けで”推定しているのではないか、という指摘に対して色彩心理学は十分に応えているとはいえない(これは色彩心理学上での色の意味が、文化や時代によって左右されうるのではないかという疑問も投げかけている)。
 このような意味から、グレー(灰色)という色そのものがごまかしや不信といった感情を喚起させるという理論が、たとえ色彩心理学というコミュニティ内ではその体系に矛盾がないように見えても、他の学術分野と接続した知見であるとはいえないだろう。
 ただし、色の趣向性と人間の関連性、という極めて控えめな言説のみを対象に人文学的視点からみると、色彩心理学で語られていることに既存の学術体系との著しい乖離はない。
 そうはいっても、色彩心理学では“実証主義”的立場をとっているように見受けられるため、体系性を高く評価することはできない。

理論の普遍性 (低)

 色彩心理学では色の持つ心理効果が広く一般に普遍的であるとしている。しかし、仮に色彩心理学で規定されている色のもつ心理的効果やイメージについて、社会一般で同意が得られたとしても、それが本当に色による心理作用なのかを判断するすべはない。
 たとえば、青色を見たから孤独、抑圧的なイメージを抱いたのか、孤独、抑圧的な状態にある人が青色を見たがる傾向にあるのか、といったことを外部が判定できるような実験や研究法を確立していない。
 よって「バーナム効果」や「確証バイアス」などの予断が入り込まない研究方法を設定しない限り、ある特定の色に対する心理イメージに普遍的共通項が見出せたと主張しても、予断のない人には適用できないものだと考えられる。

実証的効果を示すデータの観点

データの再現性 (低)

 たとえば人間の色の嗜好性について、色彩心理学ではアンケート調査を行い、現代の統計分析の水準において一定の再現性があると主張している。青色は世界の多くの文化圏において好印象と感じている人が多い、といった具合だ。 しかし、外部からアクセスできる一次データは公表されていないため、アンケート調査自体の正統性を問うことが難しく、再現可能な実験デザインを議論できる状態にない。
 さらに、色彩心理学ではヒトの色の趣向性から、人間の心理への影響についても主張している。一般的認知度の高い報告もされており、“駅などで青色の外灯を用いると自殺者が減る”などがそれに当たる(1)(2)(3)。
 これには、主観的実感として効果があったといったものや、利害関係のない中立な研究機関による実験でも肯定的な結果が出たとの報告もあり、社会的関心を広く集めた。たとえば、京浜急行弘明寺駅では青色外灯の駅ホームへの導入によって年間自殺者が減ったとした報告をしている。
 しかし、この研究には様々な疑問点もあげられる。この効果は最初に英国で広まり、後から日本において有効性が注目されたという経緯がある。しかし、そもそもこの“研究”は英国のグラスゴーという都市で青色の電灯にしたことで犯罪率が減少したという“逸話”を起源としており、元々再現性が確かめられたものではない。
 さらに、実際には外灯が青色になったことで薬物常習者の“検挙率”において“のみ”その数が減少しただけのものであり、そしてその理由としても、青光によって静脈が見えなくなったからだ、という理解しやすい説明が与えられている。
 つまり、薬物常習者が単に他の地域に移ったというだけで、青色外灯の影響で犯罪者が減ったということを意味しているわけではないと解釈できる。
 この逸話が間違った形で日本に伝わったことが色彩心理学言説の問題をややこしくしたといえるだろう。TVを中心に日本ではこれを“犯罪”が減少したと報道した。そして、それを観た各機関が実際にそれを導入、もしくは研究を行った。実際に自殺者が80%以上減少したなどの研究報告もされており、それが色彩心理学における有力な実証効果として語られている(それらの実験には統計分析上の批判があり、また、反対に否定的な研究報告もある(青色外灯を導入して一定時間は確かに犯罪率が減少するが、それを過ぎると逆に犯罪率が増加するといったもの))。
 以上のように、色彩心理学のコミュニティ上では調査データによる再現性が高いという旨の主張がなされているが、調査の前提に様々な疑問符が付いていることがわかる。
 また、色彩心理学上でよく用いられる“衝動的”や“情熱的”などといった語句はあいまいで様々な解釈が可能であり、データの再現が容易にできるような実験も行いにくい。

データの客観性 (低)

 多くの色彩心理学の学術書には、あらかじめ暗黙の前提として各色のもつ心理効果やイメージが記述されており、その前提について批判的に検証されている様子はない。
 また、色彩のもつイメージや心理効果について客観的に判断できるような実験は行われておらず、“なんとなく”“ぼんやりと”そういう傾向性があるように見せているのが実態といえる。

データと理論の双方からの観点

データ収集の理論的妥当性 (低)

 もしも、赤色が「情熱的な」感情を喚起させるのであれば、たとえば対象者のバイタル(血圧、脈拍など)を測定するといった方法も可能なはずである。
 しかし、色彩心理学では主にアンケート調査や被験者の主観的効果によってデータを収集できるとしており、それが理論的に妥当であるとは言い難い。

理論によるデータ予測性 (低)

 色彩心理学という言葉が独り歩きしており、その実態がつかみにくい。よって現在どのような科学的な手法をとって研究を行っているのかについても、一般向けに出版された書籍や専門家を名乗る学者の学説から推測するしか手段がない。
 書籍などを見る限りでは、各色における心理効果はすでに確立されている物としていて扱われていて、反証されていないことが見受けられる。

社会的観点

社会での公共性 (低)

 色彩心理学において社会的な発信源となっている団体は、総じて公共性が低い。書籍の著者、または関連団体が色彩心理学に関する“資格”を独自に作成し、それに合わせた科学を行っているのが現状であり、公共性の低さを物語っている。
 以前から色彩心理学における疑似科学性も指摘されており、そういう意味においても肯定的な評価をすることはできない。

議論の歴史性 (中)

 色彩心理学の源流はゲーテの『色彩論』(1810年)にたどることができる。そこから、色のもつ意味やその効果について研究がされてきたのだが、シャイエ他の『色彩とパーソナリティ』(1964)において、それまで研究結果がまとめられている。
 そこには、それまでの研究による色の意味の変移(研究者、時代別)なども記載されているのだが、そこからそれを体系的にまとめるという試みはなされていないようである。
 また、現在の色彩心理学においては、色彩の知覚に関してはよく説明されているのだが、肝心の色のもつ意味は置き去りにされているように見受けられ、議論が止まっているようである。

社会への応用性 (中)

 色彩心理学というと一般的には耳慣れない言葉であるが、色のもつイメージと言い表すと、馴染みのある言説であるだろう。
 そして、色彩心理学では実証主義に基づいているとしているが、少なくとも現状ではきちんと立証されているとはいえないだろう。よく見かける赤色は「情熱的な色」との言説が実証的な正統性を保っているとは言い難く、色彩心理学がその根拠を保証しているわけでもない。
 しかし、このような誤信が社会的に有用である場合もある。たとえば、恋人とデートに出かける場合「情熱的な赤い色」の服を着ていけばいいと“決める”ことができ、これは認知的節約につながるうえ、相手も同じ認識をしていれば非言語的コミュニケーションが成立する。  
 このように、仮に疑似科学的言説だとしても社会での有用性を見出すことができ、そのような面において科学性を問うこと自体が“ヤボ”だという評価もできる。しかし、本研究はあくまで科学的言説における評定であるため、色彩心理学における社会的な応用性も中程度と評価したい。

総評

疑似科学

 色のもつ心理効果における理論が不明瞭であり、歴史的にこう思われてきた、現代社会ではこのように使われているなどといった“信奉”に基づくものでしかないのが現状である。典型的な事例を再現性の項目で言及した「青色が自殺者を減らす」といった研究などに見ることができる。
 青色の外灯によって自殺者を減らしたと確証が得られるほどの信頼性のあるデータは存在せず、そもそも、TVなどの紹介を観てその効果について先入観をもった人たちがさらに一般へ広く“宣伝や警告”をしたうえで青色外灯などを導入している、との類推もできるのだが、色彩心理学ではこれを成果として扱っているようにも見受けられる(色彩心理学自体に実態の掴めない面がある)。
 統計分析によって相関関係がみられた場合においても、それを事物の因果にそのまま帰結するという結論はとらず、他の素要因等を慎重に吟味するのが一般的であるが、そういう議論も見受けられない。
 色彩心理学では、色のもつ意味や効果という論点が、理論全体の“前提”となってしまっており、そこに反証可能性の余地がないことが最も大きな問題だといえる。
 また、本言説においては「社会的学習」という面も無視できず、こうした意味を吟味する必要があるだろう。

参考文献:

(1)http://www.ieij.or.jp/shibu/kansai/info2008/080714symposium01.pdf 青色防犯灯の導入背景と全国実態調査報告 財団法人 都市防災研究所 客員研究員/防犯担当 須谷 修治 照明学会誌9 月号 特集「防犯照明と青色光照明」(シンポジウム用原稿)
(2)「青色防犯灯による防犯効果と青色・白色複合LED 照明の開発」 平 伸二 福山大学人間文化学部心理学科 福山大学こころの健康相談室紀要 第4号
(3)https://www.ieij.or.jp/JIEIJ/2008/vol92n09.html 日本照明学会誌 第92巻 第9号 2008年9月 「特集 防犯照明と青色光照明」
(4)『色を心で視る』 千々岩英彰

『ビレン色彩心理学と色彩療法』 フェイバー・ビレン
『色彩心理学』 西田虎一
『色彩心理学入門』 大山正
『心を元気にする色彩セラピー』 末永蒼生
『入門色彩心理学』 滝本孝雄 藤沢秀昭著
『はじめて読む色彩心理学』 岩本知莎土

情報提供、コメント、質問を歓迎します。

(最終更新日時2015年8月25日)

投稿

投稿&回答

回答をいただきありがとうございます。
 Sensation Seeking Scaleとの関係についての質問に対する回答はまだありませんが、よろしくお願いいたします。 また言語相対仮説は関係ないとありますが、その理由が書かれておりません。あまりに問題をある枠組みに限定してお考えであるように感じました。
 「色彩心理学」とはこのような言説に関するものだと限定されて、論を展開されることからくる問題があるように思います。「色彩心理学」あるいはそれに類した名前の論文で、当タイトの定義の枠組みに入らない「色彩心理」に関するものは一体どうなるのか気になるところです。
 「色彩心理学」のキーワードで検索してみますと、確かに当サイトで問題にされているテーマと内容のものが多くありましたが、内容的にそうではないものもあります。たとえば日本色彩学会編「新論 色彩科学ハンドブック1980の相馬一郎「色彩心理学」は解説文ではありますが、そこで述べられていることには違和感はありませんでした。そこで述べられている「色彩心理学」についてはどう評価されるのでしょうか。

  (投稿者:a psychologist,投稿日時:2015/10/30 16:11:38)

ご投稿ありがとうございます。
Sensation Seeking Scaleとの関係、とのことでしたが、本研究で扱っている「色彩心理学」との関係でa psychologist様はどのような意味を含んでいるとお考えなのでしょうか?
また、評定内で言語相対仮説については初めから触れていないと思うのですが、a psychologist様は具体的にどの部分に疑問をもっておられるのでしょうか?
>あまりに問題をある枠組みに限定してお考えであるように感じました。
――むしろ、ある枠組みに限定した問題を取り上げることで、こうした問題を議論できるのではないでしょうか。
>「色彩心理学」とはこのような言説に関するものだと限定されて、論を展開されることからくる問題があるように思います
――このような観点には概ね同意ですが、「語句説明」にて、言説がいかなるものであるか、を説明しております。「これこれこういうものは対象としない」という明示が不十分だ、といことは、むしろこうしたコメントにて受け取る仕組みとなっています。 (回答日時:2015/11/10 10:17:28)

自己啓発のなかで色彩心理学だけ異質なような気がしました。パーソナリティの領域では長年問題となっているテーマです。たとえばsensation seeking関連の論文では1960年代から取り上げられ、現在も研究論文があります。これらは疑似科学の範疇にはいるのでしょうか。また言語相対仮説との関連である色名についてのことばをもたない人たちについての議論が1930年代に議論され話題になりましたが、現在でも関連の論文があります。また色覚の心理学はどのようにここでは扱われるのでしょうか。 (投稿者:a psychologist,投稿日時:2015/10/27 13:44:45)

a psychologist様
ご投稿ありがとうございます。
ここで扱う色彩心理学には言語相対仮設(サピア・ウォーフ仮説)は関係ありません。
また、色覚の心理学は、通常、知覚心理学の枠組みで語られております。ただ、「色彩心理学」では単なる知覚にとどまらず、色彩によってヒトの「行動」や「思考(?)」にまで言及できるとするものでありますので、知覚心理学とは枠組みとして意を異にするものだと考えております。 (回答日時:2015/10/30 13:37:09)

「部屋の色が暖色か寒色かで時間感覚が変わる」「カップの色が暖色か寒色かで飲み物の体感温度が変わる」といった、色彩が感覚知覚に影響を与えるという話を聞きますが、これらも疑似科学的な言説ですか? (投稿者:i)

まずは疑似科学と言われているものの体系的なまとめを公開して頂き感謝致します。広範な調査を行っており頭が下がります。一点だけ気になった部分があるのでさせてコメント頂きます。それは出典が少ないことです。

例えば

「たとえば人間の色の嗜好性について、色彩心理学ではアンケート調査を行い、現代の統計分析の水準において一定の再現性があると主張している」

とありますが誰がどこで主張しているのかわかりません。

具体例を挙げることは対象を特定することなので敢えて避けているのかもしれませんが、

「中立的な心理学の研究機関からは、以前から色彩心理学における疑似科学性が指摘されており」

は反論している訳ではないので出典を明記しても構わないでしょう。参考文献に記述されているかもしれませんが、どこに記述されているかまで明確になっているとより説得力が増すものと思われます。

科学的な手法を持って疑似科学を特定しようとするのであれば疑似科学の疑いのあるものについても出典を明記し相手の反論を積極的に受け入れることが望ましいかと思われます。安定継続したサイト運営のためにトラブルの元になる出典元は敢えて出さないのも一つの考え方だとは思いますので運営方針次第でしょう。
(投稿者:thankyouforthesite)

thankyouforthesite様
ご投稿ありがとうございます。
色彩心理学について大変鋭いご指摘ありがとうございます。ご指摘の通りなのですが、出典や引用文献、関連リンクなどは改善していく方針でして、現在皆様からの情報を幅広く募集しております。サイト運営に関しましてはまだ試験運用段階ということもありしばらく様子を見ながら、と考えております。
色彩心理学に関する具体的なご指摘の個所についてですが、前者はおっしゃる通り対象の特定を避けるためです。後者に関しましては「現在の正統的な心理学的知見とは整合性がとれない」という文脈で用いたつもりでしたが、この書き方だと語弊があったかもしれません。追加調査後、訂正あるいは出典の明記などさせていただきます。
ありがとうございます。

冷凍食品は、赤い包装のほうがよく売れるというのは、本当ですか? (投稿者:swc)

昔の冷凍食品は地味な色の包装がされていたので、赤い包装をしたものを売り出したらよく売れたということです。今日の冷凍食品はカラフルな包装が多いので、もう効果はないでしょう。

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日本色彩心理学研究所
「青色防犯灯の導入背景と全国実態調査報告」
財団法人 都市防災研究所 客員研究員/防犯担当 須谷 修治 照明学会誌9 月号 特集「防犯照明と青色光照明」(シンポジウム用原稿)
「特集 防犯照明と青色光照明」
日本照明学会誌 第92巻 第9号 2008年9月