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水素水

言説の一般的概念や通念の説明

語句説明

素水とは、①圧下で水素ガスを水に充填する、②マグネシウムと水、あるいはアルミニウムと酸化カルシウムと水の化学反応により水素分子を発生させて溶存する水素分子濃度を高める、③水の電気分解により陰極側に発生した水素分子を利用する、などの方法によって生成された水素分子の濃度を高めた水を意味する[1]。
  このうち、特に③の方法によって生成された水について「活性水素水」あるいは「電解還元水」「アルカリイオン水」などと呼ばれることもある[2]。本項では、水素水の経口摂取などによるヒトへの健康効果について評定する。

  現在、社会的に水素水の健康効果として謳われている主張は多岐に渡る。たとえば、パーキンソン病や糖尿病、メタボリックシンドロームやリウマチ、ED(勃起不全)やアンチエイジング、がんへの予防効果などである[3]。こうした健康効果が広く謳われるようになったのはごく最近のことで、2012年頃からテレビや雑誌などを中心に取り上げられたことで徐々に一般に広まったとみられる[4]。関連した水素製品も開発・販売されている。

  本評定では、こうした健康効果主張の背景にある研究として、次の2件の包括的レビューに記載されているヒトを対象とした試験を主に参照する。

1)Ichihara et al. “Beneficial biological effects and the underlying mechanisms of molecular hydrogen–comprehensive review of 321 original article”, Medical Gas Research, 2015
2)Nicolson et al. “Clinical Effects of Hydrogen Administration: From Animal and Human Diseases to Exercise Medicine”, International Journal of Clinical Medicine, 2016

  上記1)、2)によると、2007年から2015年6月までに321件の水素水研究が報告されており、その中でヒトを対象とした研究は32件とされている。また、10人以上を対象とした研究は19件で、うちオープンラベルによる研究[5]が9件、単盲検法による研究が1件、二重盲検法による研究は10件である(オープンラベルと二重盲検の両方を行った研究が1件ある)。健康なヒトを対象とした研究はわずか2件である。

  以上の包括的レビューをもとに、そこに記載されている元論文を科学的根拠となる研究とみなして評定を行う。なお、本評定では経口摂取によるヒトに対する健康効果といった応用的な側面(臨床研究)を重視し、げっ歯類を用いた研究や植物を用いた研究などは予備的研究とみなして評定の対象とはしない。


[1]国立健康栄養研究所「健康食品の安全性・有効性情報「水素水」」http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail3259.html
[2]原理的には「水素水概念」のなかに活性水素水や電解還元水の概念が含まれることになるが、実態ははっきりしない。また、電解水の生成器は家庭用管理医療機器に区分されている。
[3]たとえば、藤吉雅春「大流行「水素水」でセックスレス解消!」『週刊文春』2012,p146-149文藝春秋;「水素水「効果ゼロ」報道に異議あり!」『週刊文春』2016,p118-120文藝春秋;「水マニアが教えます!水の種類と効果・効能」http://umai-mizu.com/entry5.html
[4]山本輝太郎・石川幹人「水素水関連言説における科学コミュニケーションの実態~疑似科学とされるものの科学性評定サイトを媒介して」科学技術社会論学会年次学術大会2016
[5]オープンラベル研究とは、被験者および試験責任者が各被験者に投与されている製剤を知っている状態で実施される試験のことをいう。

目次:

1.水素水理論は場当たり的?
理論の観点:論理性(低) 体系性(低) 普遍性(低)

2.安定した効果は得られていない
データの観点:再現性(低) 客観性(中)

3.理論と実験による効果が不一致である
理論とデータの観点:妥当性(低)~(中) 予測性(低)

4.水素水を批判すると大変だ
社会的観点:公共性(低)~(中) 歴史性(低) 応用性(低)

総評:疑似科学

理論の観点:

論理性(低)

  水素水の健康効果を支える理論的根拠は「抗酸化作用」である。抗酸化作用とは、平易にはヒトの酸化ストレスを抑える作用をいい、このような機能を有する物質を一般に「抗酸化物質」という。抗酸化物質はヒト、食品あるいはそれら以外の様々な物質に酸素が関与する有害な作用を抑制する物質の総称である[6]。

  抗酸化物質が話題を集めているのは、近年、酸化ストレスをもたらす物質である「活性酸素・フリーラジカル」と老化や疾患が強く関係しているとの科学的知見によるものである。一説には、これらが関与しない病態は存在しないとまで言われており[7]、ゆえに酸化ストレスを抑える抗酸化物質が注目されている。

  活性酸素とそれに対する抗酸化作用自体は特異な現象ではなく、生体内で日常的に起きている。しかし、たとえば多量の喫煙や排気ガスの吸入、何らかの疾病に罹患して薬剤を服用するなど要因によって身体が正常でない状況になると、活性酸素種の生成とその消去のバランスが崩れる。すると、活性酸素が過剰に存在している状態、つまり酸化ストレス状態となり、これがさまざまな悪影響を及ぼす原因とされるである。

  問題は、こうした酸化ストレス状態を改善する機能が「水素水」にあるのか、ということであるが、先に挙げた2015年6月までのヒトを対象とした研究では結果にバラツキがみられる。酸化ストレスを評価する指標はいくつか開発されている(後述)が、ヒトを対象とした水素水の研究では、酸化ストレスが改善した研究と改善していない研究とが混在しており、一貫した結果が得られていない。

  たとえば、スポーツ選手を対象とした研究[8]では、水素水によって運動後の乳酸値抑制効果があったとしている一方で、酸化ストレスを評価する指標(d-ROMs、BAP)には有意な変化がなかった。また、リウマチ患者に対するオープンラベルの研究[9]では、酸化ストレスマーカー(8-OHdG)への抑制効果があったが、別のメタボリックシンドローム患者に対する研究[10]では同じ測定指標(8-OHdG)に対して有意な変化がみられていない。


[6]抗酸化物質は多岐にわたるが、その多くは植物性の食材から得ることができる。水溶性であれば、ビタミンCや多くのポリフェノール化合物がある。他に、水溶性のアスコルビン酸、脂溶性のトコフェロールやカロテン類等もある。ヒトの場合、抗酸化物質の多くは生体内で合成することができないため食事から補給する必要がある。
[7]関泰一「d-ROMSテストによる酸化ストレス総合評価」『生物試料分析』2009
[8]Aoki et al. Pilot study: Effects of drinking hydrogen-rich water on muscle fatigue caused by acute exercise in elite athletes, Medical Gas Research, 2012
[9]Ishibashi et al. Consumption of water containing a high concentration of molecular hydrogen reduces oxidative stress and disease activity in patients with rheumatoid arthritis: an open-label pilot study, Medical Gas Research, 2012
[10]Nakao et al. Effectiveness of Hydrogen Rich Water on Antioxidant Status of Subjects with Potential Metabolic Syndrome – An Open Label Pilot Study, J. Clin. Biochem. Nutr, 2010

体系性(低)

  抗酸化物質や抗酸化作用のヒトに対する影響は先進的な分野であり、現在盛んに研究が行われている。関連して、ヒト体内における酸化ストレスを測定するための直接的・間接的な指標もいくつか開発されている。
  たとえば、水素水研究でも用いられているd-ROMsテストは血中ヒドロペルオキシド濃度を間接的に測定する評価指標であるが、d-ROMsテスト値が基準値よりも高かった群は、正常値の群と比較して心血管系有病率と死亡率が有意に高いとの報告がある[11]。ヒト体内の酸化ストレスと疾病の関係についての知見は徐々に集積されているといえる。

  一方、水素水の健康効果に関する研究も、こうした抗酸化作用を理論的支柱としつつ評価の指標としているため、その意味では突飛な理論ではないといえる。ただし、ヒトを対象にした研究の場合、水素水における抗酸化作用については一致した見解に至っていないため、評価を割り引く必要がある。特に、水素分子がどのように体内で抗酸化作用を引き起こしているかについての作用機序が明確でないことは問題である。


[11]Vassalle et al. Elevated hydroperoxide levels as a prognostic predictor of mortality in a cohort of patients with cardiovascular disease, Int. J. Cardiol., 2005

普遍性(低)

  水素水研究では、対象疾患に関する一部の数値改善が効果として報告されている。ただし全般的に、測定したいくつかの指標のうちの一部のみに対する数値改善であったり、一貫した結果が得られていないといった問題がみられ、限定的な疾患のごく一部の数値改善効果が示されるに留まっている。
  また、一般に流布している「がんへの予防効果」「ED(勃起不全)に対する効果」「アンチエイジング効果」「ダイエット効果」を示すヒトを対象とした研究は報告されていない(2015年6月時点)。

  これまで報告されている研究の多くは「病気のヒト」を対象とした医学研究であるが、健康なヒトを対象にした研究に「スポーツ選手(サッカー選手10人)の筋肉疲労改善効果」がある 。この研究では、運動前の水素水の飲用によって疲労原因物質とされている乳酸値(lactate)抑制効果が得られているが、一方で水素水言説の理論である酸化ストレス指標(d-ROMs、BAP)には有意な変化はなかったとされている。
  また、ポジティブな効果として述べられている乳酸値抑制についても、近年のスポーツ科学分野において「乳酸で疲労する」という知見自体に懐疑的な見解があることもあり 、一義的に「効果があった」と言い切れない実態がある。

  抗酸化作用について同一の測定指標を用いても結果が出るものと出ないものがあり、ヒトに対する効果を支える理論の不確かさがうかがえる。このまま理論が複雑化していくと「リウマチの場合には酸化ストレスマーカーが下がるがメタボの場合には下がらない……」といった繰り返しとなり、後づけの理論補強がいくらでも可能になってしまうため科学的とはいえない。
  以上より、普遍性は低評価とする。


[12]前掲書Aoki et al. Pilot study: Effects of drinking hydrogen-rich water on muscle fatigue caused by acute exercise in elite athletes, Medical Gas Research, 2012
[13]谷健太、片平誠人「クールダウンの生理学的効果に関する文献的考察」『福岡教育大学紀要』2012

データの観点:

  

再現性(低)

  再現性評価の前提として、語句説明にて挙げた水素水の包括的研究1)をもとに、10人以上のヒトを対象とした水素水研究(19報)のおおまかな概要を以下に示す(2015年6月時点)。

ヒト対象の水素水研究(10人以上の被験者)

対象(※水素水以外での利用) 主な測定項目 実施年度 被験者数 実験形式
メタボリックシンドローム患者 酸化ストレス評価値やコレステロール値など 2010年 20人 オープンラベル
慢性腎不全患者(※水素利用の人工透析) 酸化ストレス評価値 2010年 29人 オープンラベル
肝腫瘍患者 QOLスコア[14] 2011年 49人 オープンラベル
ミオパチー患者[15] 生理指標(乳酸値など) 2011年 31人 オープン/二重盲検
リウマチ症患者 活動性評価(DAS28) 2012年 20人 オープンラベル
脂質異常症患者 コレステロール値など 2013年 20人 オープンラベル
圧迫性皮膚潰瘍患者 創傷サイズや回復期間 2013年 22人 オープンラベル
紫外線皮膚損傷患者(※水素ガスによる効果) いくつかの生理指標 2013年 28人 オープンラベル
脳虚血患者(※静脈内注入) 酸化ストレス評価値 2013年 38人 オープンラベル
軟部組織損傷患者(※水素が豊富な錠剤) 回復期間や血液粘稠度 2014年 36人 単盲検法
二型糖尿病患者 コレステロール値など 2008年 30人 二重盲検法
健康な男性スポーツ選手 筋肉疲労や酸化ストレス評価値 2012年 10人 二重盲検法
パーキンソン病患者 病態評価(UPDRS) 2013年 17人 二重盲検法
間質性膀胱炎患者 ※有意な治療効果なし 2013年 30人 二重盲検法
リウマチ症患者(※静脈内注入) 活動性評価(DAS28)や酸化ストレス評価値 2014年 24人 二重盲検法
健康なボランティア 血管内皮機能 2014年 34人 二重盲検法
代謝性アシドーシス患者 血中アルカリ度 2014年 52人 二重盲検法
慢性B型肝炎患者 酸化ストレス評価値 2014年 60人 二重盲検法
脂質異常症患者 コレステロール値など 2015年 68人 二重盲検法

  まず、これまで報告されているヒトを対象とした水素水研究の多くは、特定疾患に対する限定的な数値改善であることが指摘できる。上記の研究の中で「健康なヒト」を対象とした研究は2報である。
  たとえば、上記の二型糖尿病患者に対する研究では、sdLDLコレステロール値[16]に有意な減少効果がみられているが、LDL/HDLコレステロール値全体には変化がなかったとしている[17]。
  また、肝腫瘍患者に対する研究[18]ではQOLスコアの改善がみられたとしているが、統計処理をしているとはいえ、オープンラベルでの研究ということから推定すると事実上かなり主観に頼った指標であると思われ、「何に対して効果があったのか」が明確でないことが指摘できる。

  個々の研究同士で一貫した結果が得られていないことも問題である[19]。論理性の項目で述べたように、研究によって同一の指標に対する効果があったり/なかったりするため、再現性を高く評価することはできない。そもそも研究数自体が少なく追試もほとんどないため、全般的に再現性がきちんと担保されているともいえない。

  さらに、上記のメタボリックシンドローム患者を対象としたオープンラベルの研究では、一日当たり1.5リットル~2リットルの水素水を飲用させた8週間の実験期間の間に、何種類かの軽度の有害事象が65%の被験者にみられている。腹痛、頭痛、胸やけ、下痢など軽度の症状であるが、当該研究ではこれらの症状と試験物質を関連付けることが“可能である”としている。

  以上から、ヒトを対象とした水素水研究の効果の再現性は低評価とする。また、これまで報告されている研究はほとんどすべて医学研究として厳密にコントロールされたものであり、市販の缶入り水素水などに対する効果を担保するものではないこともあえて付しておく。


[14]この研究では、EORTC(European Organization for Re−search and Treatment of Cancer)QLQ-C30が評価スコアとして用いられている。「長い距離を歩くことに支障がありますか?」「痛みがありましたか?」など、日常生活における健康状態に関する質問に対して自己申告にて記入する。
[15]ミオパチーとは、筋肉の病気のうち、筋自身に原因がある疾患の総称である。この研究では、「炎症性ミオパチー」および「ミトコンドリアミオパチー」患者が対象となっている。
[16]sdLDLコレステロールとは、small,dense,LDLコレステロールの略である。sdLDLは冠動脈疾患と強く関連しており、「超悪玉コレステロール」というニックネームで呼ばれることもある。
[17]Kajiyama et al. Supplementation of hydrogen-rich water improves lipid and glucose metabolism in patients with type 2 diabetes or impaired glucose tolerance, Nutrition Research, 2008
[18]Kang et al. Effects of drinking hydrogen-rich water on the quality of life of patients treated with radiotherapy for liver tumors, Medical Gas Research, 2011
[19]データが一貫しない背景として、多重比較への補正が十分でない可能性が考えられる。実際、上記研究においても補正に関する記述がなかったものがいくつかみられる。

客観性(中)

  ヒトを対象とした研究のうち、(サンプル数が多くなく、対象疾患もバラバラであるとはいえ)RCTかつ二重盲検法で行われた10件の研究の客観性は高い(2015年6月時点)。それ以外のオープンラベルでの研究も、基本的に医学研究としての実験プロトコルに則っており評価できる。

  しかし、ヒトを対象とした研究数やサンプル数、追試が少ないことが問題視されており[20]、たとえば「ごく一般的な健康な人が、市販の水素水を恒常的に飲用した場合」のデータなどはほとんど不明である。少なくとも、上に挙げた19件の研究以外のヒトに対するデータの客観性は担保されていないといってよい。


[20]松永和紀「水素水、「ニセ科学」と切り捨ててはいけないが、エビデンスありとは言い難い」FOOCOM.NET2016(http://www.foocom.net/column/editor/14366/);山形大学理学部物質生命化学科 天羽研究室「水素水の宣伝をニセ科学と呼ぶしかない理由(2016/02/20)」(http://www.cml-office.org/wwatch/alkalli/comment-ph-08)

理論とデータの観点:

妥当性(低)~(中)

  RCTや二重盲検法にてデータ収集が行われている研究の妥当性は基本的には高い。しかし、水素水研究では何が測定されているかという意味をつかむことが難しい。特に、追試が少ないため本当に妥当なデータであるかどうか断定できないことは問題である。
  水素水によって「特定疾患に対する何らかの数値改善がみられた」という共通項はみられるものの、効能に対応したデータ収集がなされておらず、作用機序が不明であるため妥当性に疑問が残る。

予測性(低)

  水素水による健康効果の理論的支柱は抗酸化作用である。しかし、酸化ストレスが軽減した研究と効果がなかった研究が混在しており、理論とデータが不一致であることがうかがえる。
  抗酸化作用を理論的背景とするのであれば「どのような対象が、どのくらいの水素水を飲用した場合、どの程度の抗酸化作用があるか」が問題となるが、現状、こうした予測性は低いといえる。

社会的観点:

公共性(低)~(中)

  ヒトを対象とした研究の個々の論文は専門誌の査読を経ているため公共的である(公共性が高い)といえる。しかし、問題を「水素水業界」でとらえた場合、公共性に疑問が残る。
  たとえば、水素水の健康効果について否定的な見解をとる研究者個人に対して、水素水関連団体からの抗議文や内容証明郵便が送られてくるといった問題がみられている[21]。原則的には、独立した精神と自由な発想が研究者個人には保障されるべきであり、こうした抗議文は科学の基本精神を委縮させ公共性を損ねているといえる。


[21]samakikakuの今日もワハハ「分子状水素臨床工学研究会から抗議文書が来た!」(http://d.hatena.ne.jp/samakita/20160609/p1);togetter「いま注目の水素水商法!(消費者行政・適格消費者団体的に)」(https://togetter.com/li/982039)

歴史性(低)

  水素水研究が活発になったのはごく最近のことである。2007年、有名な科学誌「ネイチャー」に発表された論文がそのきっかけとみられている[22]。また、ヒトに対する健康効果が一般に広まり始めたのは2012年頃からであり、ワイドショーや週刊誌にて紹介されたことが始まりである。   

  水素水の健康効果について懐疑的にみる向きが表面化したのは2016年5月頃だと思われる。具体的には、産経ニュース(5月14日)にて水素水効果に批判的な記事[23]が書かれたことがきっかけであると推定される。このニュースはすぐにネット上で話題となり、先の産経ニュースに類似した内容の記事もいくつか発表された。

  また、国立健康栄養研究所が発表した「有効性に信頼できる十分なデータが見当たらない」との情報は大きな契機となった(6月20日)。この情報はすぐに報じられ、これによって健康効果の論争に一つの区切りがついたとの見方も出てきた[24]。

  科学的な議論における水素水の健康効果については現在も議論が進行しているが、その歴史は浅い。また、健康効果については(現在は)懐疑的な見方が大勢を占めていると分析できる。


[22]前掲書G. L. Nicolson et al. “Clinical Effects of Hydrogen Administration: From Animal and Human Diseases to Exercise Medicine”, International Journal of Clinical Medicine, 2016
[23]平沢裕子「美容、ダイエットと何かと話題の「水素水」実はかつてブームを巻き起こした「あの水」と同じだった…」産経ニュース2016(http://www.sankei.com/life/news/160514/lif1605140008-n1.html)
[24]産経ニュース「有効性に信頼できる十分なデータが見当たらない 国立健康・栄養研究所が見解」2016(http://www.sankei.com/life/news/160617/lif1606170023-n1.html);J-CASTニュース「水素水に「有効データ見当たらない」 国立研究所「発表」が論争にピリオド?」2016(https://www.j-cast.com/2016/06/22270406.html?p=all)

応用性(低)

  これまで医学研究として報告されている水素水の健康効果は、特定の疾患に対する限定的な改善効果である。「ごく一般的な健康なヒト」が飲用した場合にどのような効果があるかはほとんど明らかになっていない。

  また、仮に水素に健康効果があったとしても、「水素水」の形式で飲用することのメリットは薄いように思われる。たとえば、「水素生産菌」を利用した製品[25]のように、体内の菌類を活用するほうが理屈として理にかなっており、水に溶けにくい水素をわざわざ「水素水」として取り入れる積極的な理由を見出せない。

  関連して、市販されている水素水商品のいくつかでは、「水素水」と表示されているにもかかわらず水素が検出されないといった問題が指摘されている[26]。水素分子は小さくて軽く、ペットボトルのような保存法では濃度が一定に保てないという原理的な欠陥も指摘でき、応用性を高く評価できる材料はない。


[25]協同乳業「ミルクde水素」(https://www.meito.co.jp/milkdesuiso/)
[26]J-CASTニュース「水素水「やっぱりただの水」国民生活センター調査の唖然」2016(https://www.j-cast.com/2016/12/16286330.html?p=all)

総評:

疑似科学

素水の効果を医学的に研究する試みは現在も行われており、個々の研究自体は疑似科学とはいえない。ただし、ヒトに対しての具体的な効果・効能は確立されておらず、データ不足であることが懸念される。特に、水素水の理論的支柱である抗酸化作用については懐疑的にならざるを得ず、この段階で「○○という効果がある」と主張することは難しいだろう。

  現在、医学研究の検索エンジン(PubMed)等において、ヒトを対象とした経口摂取における水素水効果の論文を検索すると、ヒットするのはほんの20件~30件程度である[27]。

  一概に論文量の問題ではないが、①特定の疾患の患者を対象とした研究ばかりであること、②得られているデータが限定的な効果に留まっていること、③追試がほとんどみられないこと、④一貫した結果が得られていないことなどは明確な問題であるといえる。
  医学的な“研究対象”としての水素水研究は否定しないが、過度な健康効果を標榜するような商品・言説が問題化している社会状況[28]を鑑みて、本項では疑似科学と評定する。


[27]2017年10月10日時点。
[28]深笛義也「水素水に国が「効果なし」警告、業界が一斉反発で異例バトル「テストに疑義」「言語道断」」Business Journal, 2017(http://biz-journal.jp/2017/03/post_18343_3.html)

参考文献:

水素水研究に関する包括的レビュー:
・Nicolson et al. “Clinical Effects of Hydrogen Administration: From Animal and Human Diseases to Exercise Medicine”, International Journal of Clinical Medicine, 2016
・Ichihara et al. “Beneficial biological effects and the underlying mechanisms of molecular hydrogen–comprehensive review of 321 original article”, Medical Gas Research, 2015

10人以上のヒトを対象とした水素水研究(一例):
・Aoki et al. Pilot study: Effects of drinking hydrogen-rich water on muscle fatigue caused by acute exercise in elite athletes, Medical Gas Research, 2012
・Azuma et al. Drinking Hydrogen-Rich Water Has Additive Effects on Non-Surgical Periodontal Treatment of Improving Periodontitis: A Pilot Study, Antioxidants, 2015
・Ishibashi et al. Consumption of water containing a high concentration of molecular hydrogen reduces oxidative stress and disease activity in patients with rheumatoid arthritis: an open-label pilot study, Medical Gas Research, 2012
・Ishibashi et al. Therapeutic efficacy of infused molecular hydrogen in saline on rheumatoid arthritis: A randomized, double-blind, placebo-controlled pilot study, International Immunopharmacology, 2014
・Ito et al. Open-label trial and randomized, double-blind, placebo-controlled, crossover tiral of hydrogen-enriched water for mitochondrial and inflammatory myopathies, Medical Gas Research, 2011
・Kajiyama et al. Supplementation of hydrogen-rich water improves lipid and glucose metabolism in patients with type 2 diabetes or impaired glucose tolerance, Nutrition Research, 2008
・Kang et al. Effects of drinking hydrogen-rich water on the quality of life of patients treated with radiotherapy for liver tumors, Medical Gas Research, 2011
・Nakao et al. Effectiveness of Hydrogen Rich Water on Antioxidant Status of Subjects with Potential Metabolic Syndrome – An Open Label Pilot Study, J. Clin. Biochem. Nutr, 2010
・Sakai et al. Consumption of water containing over 3.5 mg of dissolved hydrogen could improve vascular endothelial function, Vascular Health and Risk Management, 2014
・Song et al. Hydrogen Actives ATP-Binding Cassette Transporter A1-Dependent Efflux Ex Vivo and Improves High-Density Lipoprotein Function in Patients With Hypercholesterolemia: A Double-Blinded, Randomized, and Placebo-Controlled Trial, J Clin Endocrinol Metab, 2015
・Xia et al. Effect of Hydrogen-Rich Water on Oxidative Stress, Liver Function, and Viral Load in Patients with Chronic Hepatitis B, Clinical and Translational Science, 2013
・Yoritaka et al. Pilot Study of H2 therapy in Parkinson’s Disease: A Randomized Double-Blind Placebo-Controlled Trial, Movement Disorders, 2013

関連書籍:
・左巻健男『水の常識ウソホント77』平凡社新書2015

情報提供、コメント、質問を歓迎します。

(最終更新日時2017年11月8日)

投稿

投稿&回答

根本的に疑似科学の構造を持っているということが理解されていないというところです。
・論文をレビューしている総説論文の著者の見解の反対を述べる。
・左巻なる著者の「水の常識ウソホント77」なる一般書が、なぜ混入するのか。他の記事でもそうですが。
例えば、本来、科学的根拠に基づく医療EBMなどでは、事前にある程度の扱いを定められるじゃないですか。

総説論文を確かな位置に置き、その見解をそのまま使い、一般書を低い位置づけに置き参考程度にとどめ結論への影響力を低める。その際、その一般書が10年、20年も前の著書であれば
既に科学的な知識の更新が想定されてしかるべき状況であるとみなす。

といったようなガイドラインが、「事前に」確認されていれば、透明性・客観的に公正かどうかといった批評が
第三者にもできますよね。EBMの基準をまず採用するといいかと思いますが。

それを総説論文の主張を勝手にねじ曲げ、左巻なる著書とかですね、Jカスと揶揄されてカス丸という自社キャラまで作ったJ-CASTのニュースなどを
自分の都合のよいようにツギハギして、恣意的に作文されている。
つまり、インチキじみている、疑似科学となんら変わりがない、
科学的を装っているが、かなり恣意的に結果をねじ曲げることができる、本評定は疑似科学である。そういう部分がなかなか通じていませんね。 (投稿者:mim,投稿日時:2018/01/28 20:33:58)

mimさん
一つのご意見として受け止めます。気になった点については別コメントのほうにて回答しております。ただ、コメント全体的に攻撃的な表現や内容を誇張した表現が目立ちますのでご注意ください。
(回答日時:2018/01/31 16:07:26)

具体的指摘箇所はいくつもあります、ここの著者は、自身の読解力の無さを「相手が誤謬している」などと解釈するので、議論ができないんですね。
・主観的で二重盲検でないアニマルセラピーの扱いよりも、生物医学的指標を測定した二重盲検である水素水を下においており、科学的根拠に基づく医療からみておかしい。(故に科学的根拠に基づく医療のように科学的ではない)
・この評定で採用している総説論文の著者の意見に反している。(重要なレビュー論文の意見を恣意的にくつがえしているが、そのようなことをするという予め定められたルールがないため、恣意的であり絶対的・科学的ではない)
・そうした恣意的な、科学のような絶対性を担保するような、主観的な変更性の余地のない、あらかじめ定められた尺度を採用をしていない。同一の扱いをしていることを担保できるような基準は他の記事にも公開されていない(故に科学を装っており、結論はコロコロ変わり得るため、疑似科学的である)
・「水素水」と全称して「疑似科学」であると包含している。(国語力や、論理能力に問題がある)
故に、本評定は(否、本評定サイト自体であろう)、科学を装っており、疑似科学的である。

科学を装っているだけだという新たな証言
・「水素水」と全称しているのに、「個々の基礎研究は否定しておりません」なる主張を行っており、誤認を意図的に生じさせている。
・科学とはまったく関係いのない「抗議の行い方」を、「科学的か否かの基準」に含めているようである。
(投稿者:mim,投稿日時:2018/01/28 12:12:06)

mimさん
>ここの著者は、自身の読解力の無さを「相手が誤謬している」などと解釈するので、議論ができないんですね。
――水掛け論になってしまいますが、mimさんの過去のコメントのいくつかに、いわゆる「非形式的誤謬」がみられましたので指摘しているのです(希望があれば具体例を示します)。もちろん、mimさんのコメント内容すべてが誤謬であるといっているわけではありませんし、情報提供として感謝している部分もあります。ただ、誤った論法に寄った攻撃的なコメントもありますので、注意してくださいと申し上げているのです。
>主観的で二重盲検でないアニマルセラピーの扱いよりも、生物医学的指標を測定した二重盲検である水素水を下においており
――アニマルセラピーとの比較をされていますが、前にもコメントしたように、ヒトを対象とした研究の絶対量が圧倒的に違うという前提がまずあります。また、「アニマルセラピー研究は主観的」とのことですが、たとえば次に示すようなメタ分析研究やシステマティックレビューがあります。ゆえに「アニマルセラピー研究よりも水素水研究のほうが質が高い」と批判される裏づけがないように思います。
・Kamioka H, Okada S, Tsutani K, Park H, Okuizumi H, Handa S, Oshio T, Park SJ, Kitayuguchi J, Abe T, Honda T, Mutoh Y. Effectiveness of animal-assisted therapy: A systematic review of randomized controlled trials., Complementary therapies in medicine, 22(2), 2014.
・Souter MA, Miller MD. Do animal-assisted activities effectively treat depression: a meta-analysis. Anthrozoos 2007; 20(2): 167-180
・Cochrane Schizophrenia Group, Animal-assisted therapy for people with serious mental illness, Cochrane Database, 2013
>この評定で採用している総説論文の著者の意見に反している。
――主な参考情報とした総説論文にある考察内容と同じ内容の考察ではないというのならその通りです。しかし、それはあくまで考察の段階であって、記載されている測定データ自体を歪めているということとは意味が異なるということは述べておきたいと思います。そもそも、データではなく「著者の意見(これはmimさんが使われた表現ですが)」に反することの何が問題なのかもよくわかりません。その意見が著しく測定データに反しているのであればまだわかりますが。
>同一の扱いをしていることを担保できるような基準は他の記事にも公開されていない(故に科学を装っており、結論はコロコロ変わり得るため、疑似科学的である)
>科学とはまったく関係いのない「抗議の行い方」を、「科学的か否かの基準」に含めているようである。
――まず、本サイトはトップページに示している「評定基準」「サイトの基本的考え」に沿って評定を行っています。具体的には「科学的であるか否か」を10の条件に沿って評定していますので、そちらをお読みください。そのなかで、たとえば「抗議の行い方」は「公共性」に関わると考えられますし、現に評定はその項目で記述しております。
また、「結論がコロコロ変わる」という表現には多少語弊がありますが、研究成果によって見解が変わることは科学では多々あります(というかそれが普通です)。サイトでも暫定的な情報である旨は記載しておりますので、ご批判対象がよくわかりません。
>「水素水」と全称しているのに、「個々の基礎研究は否定しておりません」なる主張を行っており、
――はじめの語句説明にて、「本評定はヒトに対する効果を対象としており、基礎研究は評定対象としていない」旨をあらかじめ記載しております。
>・「水素水」と全称して「疑似科学」であると包含している。(国語力や、論理能力に問題がある)
故に、本評定は(否、本評定サイト自体であろう)、科学を装っており、疑似科学的である。
――一つのご意見として受けとめますが、上に回答しましたように、いくつか事実認識に誤認があるようです。 (回答日時:2018/01/31 16:06:44)

他でも述べさせて頂いておりますが、まず機序(メカニズム)が不明というだけでは非科学的ではないので
ここの著者が非科学な判断を行っているということがありますね。
メカニズムが不明な治療薬は多くあります。なになにという薬の標的が何ではないかということが分かったという報道は今日でもなされるところです。

それから、科学的根拠にもとづく医療の判断基準とは異なりますね。
二重盲検のRCTは、科学的根拠の強さの証拠として結構高い場所に置かれますが、そうでもない。
そうした効果の指標の解釈と扱い方が、「アニマルセラピー」とは反対で、本来二重盲検がやりにくいし、指標が心理的なものであるアニマルセラピーに高評価を行い、
一方でこちらの研究結果に意味不明の独自の解釈を挟むということで
科学的か否かを判断するやり方が、疑似科学的な主観が入り込んでいるということですね。

何が科学的かということについての客観的な指標、後から主観的に変更される余地のない記事はあらかじめ示されていない。
これだけの「科学的研究」、科学的根拠の強い研究を列挙しながら
社会の影響やらなんやらを、個人的に解釈して「作文」しているところに幻滅しました。
もともとここでの取り組み「DHA」におけるDSMの出典の虚偽や、古い一般書の使用などに幻滅していますが。

再びここでは、社会の影響を採択する際の基準があらかじめ明確化されていないため、
結果はよく分からない社会の影響を受けています。
例えばですね、「牛乳」では直接的な広報活動だと思える牛乳保護団体の意見を肯定的に採用し、
こちらでは学術的な水素水研究団体を否定的に扱っているということです。それから、記事改定以前から掲載されている左巻なる著者の文献が残されていることをみると
あまりにも妄想的な記述に至らせた文献を残しているということは、
このような文献を個人的な理由によって肯定的に扱っているということですね。この方の文献は科学的なものとは思えません。

これだけの研究を挙げ、総説論文の著者の意見に反して、「水素水」(論理的な包含対象は全称)が「疑似科学」であるということの意味がよく分からず、その社会的影響とやらが何かよくわからずそして何ら公正でもなく、
判断のための指標が公開されておらず、個人的な主観によって結論を作文した「本評定は疑似科学的である」との評定を下しました。 (投稿者:mim,投稿日時:2018/01/14 21:38:36)

mimさん
これまのコメントでもそうだったのですが、コメント中にいくつか「誤謬」がみられます。何であれご批判は受け止めますので、誤った論法に注意したコメントをお願いいたします。

>そうした効果の指標の解釈と扱い方が、「アニマルセラピー」とは反対で、本来二重盲検がやりにくいし、指標が心理的なものであるアニマルセラピーに高評価を行い、
――まず、アニマルセラピーと水素水では研究の絶対数が全然違います。Pubmed等のデータベースで調べていただければわかりますが、ヒトを対象とした実験自体が水素水では相当少ないようです。追試がほとんどないため再現性に疑問が持たれます。

>これだけの「科学的研究」、科学的根拠の強い研究を列挙しながら社会の影響やらなんやらを、個人的に解釈して「作文」しているところに幻滅しました。
>これだけの研究を挙げ、総説論文の著者の意見に反して、「水素水」(論理的な包含対象は全称)が「疑似科学」であるということの意味がよく分からず、
――総評部分にもありますが、個々の基礎研究は否定しておりません。ただし、再現性を担保するための追試がほとんどないのは問題のように思います(再現性の項目などでも述べていますが)。

>例えばですね、「牛乳」では直接的な広報活動だと思える牛乳保護団体の意見を肯定的に採用し、こちらでは学術的な水素水研究団体を否定的に扱っているということです。
――牛乳との比較は正しくないように思います。水素水関連団体で問題なのは、抗議を公的な議論として扱うのではなく、内容証明郵便などの方法を用いることにあると考えます。
>個人的な主観によって結論を作文した「本評定は疑似科学的である」との評定を下しました。
――コメント中に水素水評定に対する具体的な指摘箇所がありません。mimさんの個人的な主観による批判としては受け止めます。
(回答日時:2018/01/18 12:31:39)

水素水は、毎日飲んでます。2年ほど・・
私は快便で、両親は便秘気味でした。
水素水を飲みたいと思ってから飲み続けています。
質問です
私は快便だったのですが下痢気味
両親は便秘どころか快便らしいです??
これは、副作用なのでしょうか??
(投稿者:ニーナ,投稿日時:2018/01/05 19:10:17)

ご投稿ありがとうございます。
下痢症状が水素水の副作用か、というご質問ですね。
評定本文(再現性の項)にて記載している通り、一部の研究にそうした報告もありますが、現状、副作用という総意は得られていないように思います。
また、効果についても副作用についても結果がバラバラで、一致した効果となっていないようです。

(回答日時:2018/01/12 09:52:16)

水素水についても評定をお願いします。 (投稿者:suisosuitokasseisuisosui,投稿日時:2017/08/09 09:47:06)

ご投稿ありがとうございます。現在前向きに検討中でございます。

(回答日時:2017/08/18 19:08:39)

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